信仰者の苦悩

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「お疲れ様でした」 「疲れてなんかいないわ」  強がってみせたが今日は疲れた。体ではなく頭が。 「ねえ、シスターの言ってた事が本当だとしたら……」 「前世の記憶が実は亡者の思念だった、って事ですか?」 「うん」 「あまり気持の良いものではないですね。迷惑な話だ」 「だよね」  ユウと話をしていると目の前でタクシーが停まった。 「では本日のお宿へ向かいましょう」  リサはタクシーに乗り込むと振り向いて教会を見た。 「本当にあの教会、戦火を免れたのかな。まさかね」 「いえ、本当ですよ」  タクシーの運転手が応えてくれた。 「周りの家はみんな燃えてしまいました。でも不思議な事にあの教会だけは残ったんです。風向きとかの関係でしょうかね。 あの教会の写真を携帯の待ち受けにすると火事に遭わないって噂もあって、結構人気なんですよ。あ、もちろん私も待ち受けにしてますよ」  運転手は面白おかしく話してくれた。でもリサは奇跡を信じてみたくなった。奇跡であって欲しいと思った。  しばらく走るとあちらこちらから煙が立ち上っていた。 「え、なに? 火事?」  この辺の人は教会の写真を待ち受けにしてるんじゃないのか、効果はないのだろうか。リサは窓ガラスに顔を付け心配そうに煙を見た。 「あれは温泉の湯気ですよ。心配はいりません。ほら、硫黄の匂いがするでしょう」  運転手が少しだけ窓を開けた。確かに硫黄の匂いがする。 「日本屈指の温泉場です。いたる所から熱い温泉が湧き出ています。向こうの河原には地獄もあるんですよ」 「地獄!?」 「硫黄で草木も生えてこないんです。本当の地獄じゃありませんがね」  リサは温泉の煙だと知って安心した。でもこの町には教会があり地獄もある。もう現代には宗教は存在しないものだと思っていたのに、まだまだその名残はあるのだと知った。  その信仰心が前世の記憶なのか、老女が言ったように湧き出てきたものか、リサには分からなかった。
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