断鎖師のお仕事

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「次の予定は?」  ユウは運転手で雇われたがマネージャーの仕事もしていた。高校出たてのリサには自分で仕事の管理をする事はまだできない。 「今日はもう終わりですよ」 「そう。あー、お腹空いた。どっか食べに連れてって」 「その格好じゃお店に嫌がられますよ。ホテルで部屋に持ってきてもらうように頼んでおきました」 「あ、そう」  黒ワンピは喪服に見える。もちろんそのつもりで着用している。リサの仕事場の殆どが拘置所だ。リサが仕事を終えるとすぐに刑に処される。この世とのお別れ、そして人間として生まれる事とのお別れ。葬送には黒ワンピが似つかわしい。  でもふと考える。その人が生まれてくるのを阻止してしまう事は殺人と同じなのではないのか。生きる機会を奪うという点では殺人と一緒なのではないか。  何故今自分がこんな仕事をしているのか。何故自分が選ばれたのか。そして輪廻の鎖を断ち切られた魂はどうなってしまうのか。  疑問だらけだが望む人は確実にいる。そして自分が世界で唯一の断鎖師だ。辞めるにしても後継者を育ててからでなくては辞められない。  なるべく考えないようにしよう。そう思いリサは運転しているユウを見た。  いい男だ。まっすぐ前を見る透き通った瞳。気持ちよくスウッと通った鼻筋。引き締まった唇。あれは硬いのだろうか、それとも柔らかいのだろうか……。 「着きましたよ」 「えっ! あ、うん」  車は滞在しているホテルに着いた。 「ユウも一緒に食べるんでしょ?」 「僕は自分の部屋でいただきますから、ゆっくり召し上がってください」 「あ、そう」  つれない男だ。もう半年も一緒に全国を旅しているのに、一度としてリサの部屋に足を踏み入れた事はない。 「ご飯食べるくらいいいのに……」  ふくれっ面のままリサは部屋へと向かった。
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