断鎖師のお仕事

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 ピザを頬張りながらリサはスマホチェックをした。依頼メールがたくさん来ていた。 「フラレてしまいました。もう生まれてきたくありません。お願いします……却下! 何甘えた事言ってんのよ」  油の付いた指でスマホの画面をスクロールする。普段仕事の時に手に油を塗りたくるので油には慣れたものだ。スマホが汚れる事など全く気にもとめない。 「なになに、姑が意地悪過ぎます。こんな人二度と人間として生まれてくるべきではありません。はい却下」  リサは連絡先を公表していない。連絡先を知っているのは拘置所関係だけだ。それどころか「断鎖師」の存在自体秘密にしている。なのにこうして時々依頼がくる。拘置所関係者が口を滑らせたのか、はたまた前世で知っていたのか。それは分からないが断鎖師は都市伝説的に噂としては広がっている。  基本リサは拘置所からの依頼しか受けない。新たに生まれ変わってきても、きっとその罪の重さに耐えられない。そんな人を救うたったひとつの手段が”断鎖”だ。  それでもわずかだが一般の人の依頼を受ける事もある。やむにやまれぬ事情を抱え、絶望している人も結構いる。昔なら隠し事は「墓まで持っていく」という事もできたが、現代は墓は最終地点ではない。来世でも隠し通せる自信のない人は断鎖を望む。 「はいはい、みんな却下」  リサは依頼と思しきメールを全てゴミ箱に放り込んだ。  食事を終えたリサはユウにメールを送った。明日の予定を聞くためだ。すぐに返信が来た。 『明日は9時に1件、それが終わったら移動です』  味も素っ気もない返事だ。せめて何処へ移動するのか教えて欲しかった。ユウの素っ気なさにも慣れてきた。でも慣れてきたからこそ、もうちょっと馴れ馴れしくしてくれてもいいのに。リサはふくれっ面のまま明日のための秘薬を調合した。
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