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3人で昼食の後片付けをした。圭さんも想太も手際がいい。あっという間に片付いて、想太の家を出る。
「送るわ」 想太が言う。
「え、でも」 同じマンションの同じフロアだ。
「あ、ついでがあるねん」
「あ、そうなん?」
2人で、エレベーターホールまで来た。
「じゃ。……今日は、ほんとにありがとう。ごちそうさま」
私は、想いを込めてお礼を言った。
美味しいご飯もだけど、それ以上に、今日、私は、想太のおかげで、モヤモヤから一歩抜け出せた。劣等感だらけで、不器用な自分だけど、それも全部ひっくるめて、がんばってみようと思えたのは、想太の言葉のおかげだ。
すると、想太は、うつむいて、ぽつりと言った。
「なあ。みなみ。……さっきさ、おまえ、自分のこと、……可愛くないって言うてたけど」
そして、そこまで言うと、顔を上げた。想太の頬が赤い。
薄茶色の丸い瞳が、真っ直ぐ私を見ている。目がキラキラしている。
(想太、何を言うつもりなのかな? 励まそうとしてくれてるのかな。大丈夫。私、もう元気だよ) そう思って、もう大丈夫、といいかけた、そのとき、
「……おまえ、可愛いから。オレにとっては、めっちゃ、可愛いから」
真剣な声で、想太が言った。
「え、え、え……あ、あの、えっと」
私が、うろたえまくっている間に、想太は、
「じゃ」
短く言って、エレベーターの向こう側の廊下を走っていった。
(え? え? え? 今の、何? え~と。え~と……)
頭の中で、想太がキラキラした目で言った言葉が、ぐるぐる渦巻く。何を言われたのか、その渦のせいで、よくわからない。
突然の、思いがけない言葉にびっくりした私が、じわじわと嬉しくなってきたのは、自分の部屋に戻ってからだった。
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