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安心したのか、想太は、今日の舞台の話をする。なんでも、朗読劇で、ピアノ演奏もするらしい。
「家で、練習してるの聞かせてもらってるけど、舞台でやってるところ観るの、楽しみやねん」
「それは、楽しみだね。やっぱりチケットとか、お父さんが、用意してくれるの?」
「ううん。そんなんずるいやろ、って、かあちゃんが。やから、普通に、チケット申し込んで、はずれたら、残念やけど行かれへん。でも、今回は、運良く当たったから」
「そっか。当たってよかったね」
「うん。めっちゃラッキー」
想太の横顔は幸せそうだ。こんなに幸せそうな想太を見ていると、胸がきゅうんとなる。
そして、想太には、ずっと幸せでいて欲しい、なんて、上から目線かもしれないけど、お母さんみたいなお姉さんみたいな気持ちにさえなる。
HSTの曲が終わりに近づいて、想太が言う。
「次の曲は、みなみが紹介するねんで」
「え、そんな、まだむり」
実は、まだ私は一回しか曲紹介はしていない。初めてやったそのときに、めちゃくちゃ緊張して失敗してからは、いつも曲をかける係に回っているのだ。
マイクの前に座ると、なぜか頭の中が真っ白になって、しどろもどろになるので、想太が上手いのをいいことに、おまかせしてきた。
「大丈夫やって。せっかく、放送委員になったんやし。なれたらできるから」
「何しゃべったらいいか、わからなくなるもん」
「横から、小さい声でセリフ言うたるよ。その通りに言うたらええから」
「えぇぇ」
曲が終わって、想太は、マイクを私の方に向け、マイクのボリュームをゆっくり上げる。そして、顔を近づける。ち、近い。近いよ、想太。うろたえる私に気づかず、想太が私の耳元でささやく。
(お送りした曲は)
「お、お送りした曲は」 必死で言う。声がちょっとふるえる。
(HSTの『飛行機雲』でした)
「HSTの『飛行機雲』でした」 心臓がバクバクいってる。
(次の曲は)
「つ、次の曲は」
(6年生の、“トトロ”さんからのリクエストで)
「6年生の、と、“トトロ”さんからのリクエストで」
(『さんぽ』 です。どうぞ)
「『さんぽ』 です。どうぞ」
想太が、マイクのボリュームをさっと下げる。曲が始まる。
私の心臓は、まだバクバクが止まらない。マイクの前に座ったせいというより、これは、別の理由だ。―――まちがいなく。
「ほら。できたやろ? ちゃんと上手く言えてたで」
想太がにっこり笑う。薄茶の丸い瞳がキラキラしている。
その破壊力……! とどめをさされて、私は、思わず、つっぷす。
「どうしたん? みなみ? 大丈夫? やっぱ、緊張した?」
すぐそばで、想太が心配そうに言う声が降ってくる。
「なあ? みなみ。……大丈夫?」
「……だいじょうぶ、じゃないかも」
やっとの思いで答えて、顔を上げると、想太が心配そうな顔をしている。
想太ってば。……困ったやつ。私は、そっとため息をつく。
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