6. 急な誘い

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 しばらく行くと、想太が、鼻歌を止めて言った。 「なあなあ、みなみ。この歌の題名はな~んだ?」 「え? ちゃんと聞いてなかった」 「なんや。聞いてへんかったん? じゃ、もう一回な」  想太が、鼻歌のボリュームを少し上げる。  ♪ふ~ん、ふ~ん、ふんふふふんふん、ふ~んふ~んふ~ん。 「え~と、え~と。あれ、ほら、オーバー・ザ・レインボー」 「あたり~。じゃあ、次は、これな」  ふたたび、想太の鼻歌が始まる。  5曲目を当てたところで、想太とお母さんの待ち合わせ場所に着いた。 「じゃあ、また明日ね」  私が、帰りかけたところに、お母さんがやってきた。こんにちは、といいかけた私を見るなり、お母さんが言った。 「あ、ちょうどよかった! 今日、このあと、何か予定ある?」 「いえ。何にもないです」 「一緒に、舞台見に行かへん?」 「え? いいんですか?」  私は、思わず、飛びつくように言った。    一緒に行くはずだった人が、急用で来られなくなったらしい。お母さんは、その場で、私の家にも電話して、一緒に行っていいというOKをもらってくれた。  6時開演で、7時半終演。それなら、帰ってから宿題もできそうだ。     想太と私のカバンは、駅のコインロッカーに預けて、電車に乗る。  会場の最寄り駅に着いて、まず差し入れを買ってから、晩ご飯を食べに行くことになった。 「みなみちゃん、イタリアンでいい?」 お母さんが言う。 「もちろん。なんでも食べます!」 「おお。頼もしいね」 「めっちゃ、美味しいとこやねんで。ぜったい、みなみも気に入ると思う」  想太が、ウキウキ顔で言う。想太と私の食べ物の好みはよく似ている。だから、想太がそう言うんなら間違いないはず。想太だけじゃなくて、私まで、ウキウキしてくる。
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