7. 舞台①

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 グッズ売り場で、公演のパンフレットや、HSTのCDやDVD・BDを眺める。  お母さんが、パンフレットと、クリアホルダーを買っている。想太も、隣でフォトカードを選んでいる。公演中のいくつかの名シーンや、稽古中のシーンの写真だ。  いろんな表情がある。切ない顔、甘い顔、クールな顔、怒りに満ちた顔、驚いた顔。ほんとにどれも魅力的な表情だ。ただのアイドルじゃない、演技派だと言われるだけある。  中でも、ピアノに向かっている写真は、うっとりするほど、きれいで嬉しそうで幸せそうで、(ああ、この人は、ほんとにピアノが好きなんだな)って伝わってくるような笑顔だ。  私も欲しいと思う写真がいっぱいだけど、想太は家で見慣れている顔だろうに、一生懸命カードを見ている。 少し、不思議な気もする。例えば、自分なら、お父さんの仕事中の写真を買うかと言われたら、う~ん。けっこうです、って言いそう。 「いろんな表情の演技の勉強になるねん」  想太がまじめな顔で言う。 「そっか。そうなんだね」  私が、感心したように言うと、想太は、ふふっと笑って、 「……というのは、いいわけ。ほんまは、好きやから、ほしいだけ。だって、見てや、この写真とか、めっちゃカッコいいと思わん?」  そう言って指さしたのは、私もうっとりした、ピアノに向かっている写真だった。 「たしかに。いいよね。めっちゃうっとりする」 私も力一杯うなずく。 「ほんとほんと」  横からお母さんもそう言って、 「よし。おみやげ、これに決まり」  そう言って、パンフレットとピアノを弾いてる写真を、急用で来れなかったというひとの分と、私の分も買ってくれた。  客席に行くと、会場は、あまり大きくはなくて、ステージがとても近い。声楽家の人が、マイクなしで演奏会をすることもある会場なんだそうだ。ステージ上には、大きなグランドピアノと、本を載せた小さなテーブル、それと椅子。  私たちの席は、わりと後ろの方の端っこなのだけど、それでも、十分に、ステージ上にいる人の表情が見えそう。  席についてしばらくして、着席を呼びかけるアナウンスがあって、圭さんが、舞台に出てきた。大きな拍手。熱い熱い拍手だ。この舞台に向けられた観客の期待が大きいことが伝わってくるようだ。  圭さんは、にっこりほほ笑んで一礼すると、まず、ピアノの前に座って、演奏し始めた。  そのピアノに向かう表情! まさに、さっきの写真を、今、生で見ているのだ。  うわあ……。客席のあちこちから、ため息のような声が漏れる。もちろん、私もその中の1人だ。  ピアノの演奏が終わると、静かに立ち上がって、圭さんが、テーブルの上の本を手に取り、静かに開く。  そして、物語が始まった。   
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