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8. 舞台②
物語は、ある男性と女性の出会いの物語だった。2人は、お互いの職場の近くのカフェで出会い、それから偶然の出会いを重ねて、次第に惹かれ合うようになる。
それは、ワクワクするような、ときめきに満ちたラブストーリーで。圭さんの朗読なので、当然だけれど、彼の声も彼女の声も、同じ圭さんの声だ。アニメの声優さんのように、キャラクターごとに声を変えるわけではない。
それなのに、私には、ちゃんと目の前に、彼の姿も、彼女の姿も、はっきりと見えるようだった。 ちょっとした息づかいや、間の取り方とかで、あ、今、彼が笑った、あ、彼女がドキドキしてる、とかが、ちゃんとわかるのだ。
さらに、圭さんの演奏するピアノが、絶妙なタイミングで入るので、様々なシーンが一層鮮やかに目の前に浮かんでくる。
いつのまにか、すっかり私は、お話の世界に引込まれて、隣にいる想太のことも、すっかり忘れていた。
夢中に過ごした前半部が終わり、休憩時間になった。
2人の素敵な恋人たちの姿が、私をとても幸せな気分にしていた。ぼ~っとしていると、
「どう?」 想太が、言った。
「めっちゃいいね……ため息しか出ないよ。声もピアノもすごく素敵」
「うん。そやな。シーンがはっきり目の前に見えるみたいやな」
「そうそれ! 声は、圭さんの声なのに、ちゃんと、彼の声と彼女の声と、違って聞こえる」
「うん」
「演奏されてる曲のピアノの楽譜欲しいな。全部素敵」
「ホールで売ってたかもしれへん。あとで見てみよう」
「うん」
あれこれ話しているうちに、休憩時間は終わり、第2部の開始が告げられた。
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