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鳴り止まない拍手。歓声。そして、涙を浮かべる観客。会場は、始まったとき以上に熱い空気で満たされている。圭さんの朗読と、演奏の素晴らしさが、観客の心を熱くしているのだ。
私は、と言えば、涙が止まらなくて、よくツボにはまる、とかっていうけど、まさしく涙のツボにはまってしまって、もう号泣状態で。
「大丈夫か?」 想太が心配そうに、私をのぞきこむ。
「う」
アンコールに応えて、圭さんが再び舞台に出てくる。
涙と鼻水ですごい顔になってるけど、必死で拍手する。何が何でも、拍手だけはする、そう思って。
会場の外に出ると、少しは落ち着くかと思ったけど、むりだった。第一部の幸せな2人を一瞬でも思い浮かべると、第二部の、あの冷たい笑えなくなってしまった2人の姿がつらすぎて、あとからあとから新しい涙が湧いてくるのだ。
「大丈夫?」 お母さんも、言う。
「だ、だいじょうぶ、」です、と言いかけて、また声を上げて泣いてしまう。
「ちょっとお手洗い、行こうか」
お母さんに誘われて、一緒に行く。そして、顔を洗う。
思い切り、ざばざば、ちょっと乱暴に洗う。
少しだけ、気持ちが切り替わる。
「大丈夫かな?」
「はい。すみません。泣きすぎですよね」 私は、少し恥ずかしくなって言うと、
「そんなことないよ。私も、初めて聞いたときやばいくらい泣いたから。それに、そんなに感情移入して聞いてくれるって、演者からしたら、とても嬉しいと思うよ」
お母さんは、柔らかな笑顔でそう言った。
2人で、ホールに戻ると、想太がぽわんとした顔で立っていた。
「私ちょっと、追加で買いたいグッズが出来たから、ちょっと待っててね」
お母さんがそう言ったので、私たちは、そのまま、ホールの隅っこで待っていることにした。
「めっちゃ、泣けたな」
「うん。めっちゃ泣けたね。始め、めっちゃ幸せやったから、その分、あとがよけいつらかった」
「そやな」
「あんなに愛し合ってたのにね。あんなふうに別れてしまうなんて、思わなかった」
想太が、しんみりした顔で、私を心配そうに見ている。
考えてみたら、私がこれほど泣いているところを、彼は見たことがないはずだ。だから、彼は、すごくびっくりして、とまどってるに違いない。
「ごめんね。想太。びっくりしたよね。私、ちょっと泣きすぎだよね。自分でもびっくりしてるくらいだから……」
そのとき、想太がぼそっと言った。
「オレやったら……」
「ん?」
「……オレやったら、あんなふうに、別れへん。絶対、もう一回一緒に笑えるようになるように、がんばる。1人で彼女を泣かせたままにせえへん」
「想太……」
(やばいよ。想太。もう一回涙が出てくるじゃないか)
そう思ったら、思わず、言葉が勝手に私の口から飛び出していた。
「ねえ、想太。想太は、何があっても、私からあんな風に離れていかないでね。きらいになったりしないでね」
「なれへんよ。絶対。何があっても、オレ、みなみのこと、きらいになんかなれへん」
「想太……」
私の涙腺が、決壊したのは言うまでもない
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