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昨日、あのあと、なかなか泣き止まない私を、なだめるように、想太はそっと背中をとんとんしてくれた。大丈夫大丈夫。そう言いながら。
そこへ、想太のお母さんが、劇中に使用された曲の、ピアノ譜を買ってきてくれて、
「みなみちゃん、これ、おみやげ。さっき、楽譜欲しいって言ってたでしょう?」
そう言って、にっこり笑いかけてくれた。ひまわりみたいな明るい笑顔で、心に光が差す。
「お、さすが、かあちゃん。オレの分もある?」
「あるよ」
「やったあ。 なあ、みなみ。これにのってる曲、1つずつ弾けるように練習していって、今度、一緒に弾こう」
想太が私の顔をのぞきこんで、笑顔で提案する。
「う、うん」
「ほら、行こか」
想太の笑顔が眩しい。
帰りの電車の中では、すっかり、私の涙も収まって、3人で楽譜を見ながら、この曲のこのフレーズがいいよね、とか盛り上がった。
家まで送り届けてもらい、想太のお母さんと私のお母さんが、話をしている間、私と想太は、楽譜集の中の1番目の曲をいつまでに弾けるようになるか、約束をした。
そして、夜、ベッドの上で、私は、想太の言葉を思い返していた。
『絶対。何があっても、オレ、みなみのこと、きらいになんかなれへん』
『きらいになれへん』ってことは、今、『好き』ってことでもあるよね?
想太は、私のことが好き、ってこと? でも、その好きは、どういう好きなんだろう?
幼なじみとして?
1人の女の子として?
そのへんが、よくわからない。
私自身の好きが、ほんとなのかどうか、という問題もあるけど、想太の好きも、どうなんだろう?
昨日の夜から、頭の中にぐるぐるしている疑問を、ぼんやり考えていると、ナナセが言った。
「……なんか、ぐるぐる考えてるみたいだけど。とりあえず、今はそうじ! でもって、すごく素敵な舞台だったから、あとで、舞台の話も、こっそりしようよ」
「うん。そうだね」
私は、ホウキをにぎり直す。
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