1. 大きなギワク。

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―――ところが。  この前、仲良しの、サトミちゃんが、言ったのだ。 「あのさ、ほんとに好きだったら、理由なんて、ないんだって」  え? うそ?!  じゃあ、私の『好き』って、何なの?  この気持ちって、ほんとの『好き』じゃないの?  心の中に、大きなギワクを抱えて、私は、隣を歩く想太を横目で見る。  保育園のときは、ぽてぽてとおモチのようにふっくらしていたほっぺが、少し、しまってきて、きれいな横顔だ。 「あ、そこ。水たまり」  想太が、私の袖を引っぱってくれて、ぎりぎりのところで、私の靴はぬれずにすんだ。 「ぼ~っとしてたらあぶないで。寝不足か?」  心配そうに言って、私の顔をのぞきこんでくる。 「う、うん。ちょっとね」 あわてて答える。 (……うそつけ。昨夜も、10時には寝てたくせに)  心の中で、自分につっこむ。 「あぶないだけやなくて、睡眠不足は、美容と健康の大敵なんやって。父ちゃんが言うてた」  想太はニコニコしている。父ちゃんの話をするとき、彼はいつもそうだ。嬉しそう。 「うん。気をつけるよ」 「うん」  うなずいた想太は、向こうから歩いてきた友達に手を振っている。 (ああ。ざんねん。今朝の2人の時間は、ここまで~)  まあ、いいか。  私には、ギワクをカイメイする時間が必要だ。  あ、付け加えておくと、ギワクもカイメイも、私はちゃんと漢字で書ける。  でも、ちょっと漢字テスト風に言ってみただけだからね。
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