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圭さんの結婚は、当時、ものすごく話題になって、多くのファンが涙しながらも祝福した、と書かれている。悲しくても相手の幸せを祈って身を引く『人魚姫』にたとえて、『人魚姫シンドローム』なんて言葉も流行ったらしい。
圭さんが、テレビの番組で、結婚相手の子ども(想太だ)から、なんと呼ばれているのかと聞かれて、『とうちゃん、と呼ばれてます』とトロけそうな笑顔で語ったので、『父ちゃんはアイドル!』なんて、新聞記事の見出しになったということも載っている。
記事を読み進めると、圭さんは語っている。
『僕、彼に一目惚れ、したんです。あ、もちろん、彼女にも。それ大事! ちゃんと書いといて下さいね(笑) なんというか、彼と彼女のいる空気、というか空間に、僕もずっと一緒にいたい、って初めて会ったときに感じたんです』
『彼が僕に似てるって、よく言われるんですけど、それ、すごく嬉しいですね』
『彼と血のつながったお父さんも、彼を引き取りたいっておっしゃってたんですけど。でも、一生懸命お願いしました。僕たちで大事に育てます。大好きな子なので、どうしても離れられません、って』
『その方とも仲良くさせてもらっています。今の奥さんとの間に、可愛い娘さんがいて。それで、僕たち2組の夫婦で、お互いの子どもたちのお父さんお母さんにもなろうって話してて。そしたら、子どもたちは、親が、2倍になるわけで。いざというとき頼れる場所が増えるのは、子どもたちにとっても、きっと心強いし、いいよね、なんて話してます』
可愛い娘さん、というのが、想太の異母妹、香奈ちゃんだろう。
(いいなあ。想太みたいなお兄ちゃんがいるって。しかも、圭さんや佳也子さんまで、お父さんお母さん的な存在だなんて。……うらやましいなあ)
一瞬、そう思ってから気づく。
(あ、違う。妹では、困るな。やっぱり、今の関係でいいや)
心の中であわてて訂正する。
圭さんの語る言葉は、想太と佳也子さん、2人への温かな愛情にあふれている。読んでいると、圭さんがこれほど可愛がっている子って、どんな子? 会いたい! って気持ちになってしまうほどだ。
そういえば……と私は思い出す。小さかった頃、運動会やイベントに集まった観客の多くが、圭さんと、圭さんが応援している想太をついつい目で追っていたことを。シンプルに想太が可愛らしい、というのもあったけど、きっと圭さんの記事の影響もあったんだろうな。
「めちゃくちゃ、愛されてるね……想太」
「うん」
想太がほほ笑む。
「でもな、とうちゃんは、1つまちがってるねん」
「?」 私は、首をひねる。
「なんだよ、それ?」
いきなり声がして、ふりむくと、圭さんが笑いながら、リビングの入り口に立っていた。
「何、まちがってるの?」
近づいてきた圭さんが、想太の頭をなでながら、記事をのぞきこむ。
『彼に一目惚れしたんです』という大きな見出しのあるページだ。
「これな、とうちゃんじゃない。オレが、とうちゃんにひとめぼれしたの!」
「いや、オレだよ」
「ちゃう。オレ」
「いや、オレ」
「ちゃう。オレ」
お互いゆずらない2人は、幸せそうに言い合っている。きりがなさそう。
「あの~。おふたり、引き分け、ってことで。どうでしょうか?」
私が言うと、
「そうだね。そういうことにしておこう」
圭さんが笑い、
「ほんまは、オレが先やけどね」
想太が笑った。
そんな2人を見ながら、家族として大事なのは、血がつながってるかどうかじゃない、そこに相手を想う気持ちがあるかどうかなのだと、私は思った。
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