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ヒミツ。
いまだかつて、これほど、心ゆさぶる言葉があっただろうか。
秘密。ヒミツ。ひみつ。
どう書いても、グッとくるじゃないか。
(まかせて、想太。 私、このヒミツ、おばあさんになっても墓場まで、持って行くから。
あれ? ……そんなに長いヒミツでいいのか?)
そんなことを考えていると、向かいの席から想太がぽそっと言った。
「なあなあ、みなみ。ウェットティッシュ、持ってる? ……カレー飛ばしてしもた」
彼は、お気に入りだと言っていた、パーカーのお腹のあたりを、困り顔で、見下ろしている。
「あ~あ~。ほら、これ」
私は、机の中から、取り出したウェットティッシュを大急ぎで渡す。ほんとは、拭いてあげたいけど、そんなことしたら、えらいことになるから、渡して見守るだけだ。でも、思うように取れなさそうだ。
「なんかあまりとれへん」 不安そうな想太。
「う~ん。ちょっとあとが残るかもね。廊下の手洗い場の石けんで、すぐに洗えばなんとかなるかも」
「そうかな? 行ってくる」
そのとき、給食時間終了のチャイムが鳴った。
「あ、食器片付けなあかん」
「いいよ、やっとくから。早く行ってきたら。こういうのは、スピード勝負よ」
「ありがとう」
想太の食器を自分のに重ねていると、方々から飛んでくる視線が痛い。今度は、その視線は、まちがいなく私に向かっていた。
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