17人が本棚に入れています
本棚に追加
5. 放送当番
「あちっ」
想太が、言った。
「ほら、牛乳」 私は、大急ぎで、ストローを刺したパックの牛乳を手渡す。
「ありがと」
想太が牛乳で舌を冷やす。
今、私たちは、急いでいる。
放送委員の当番の日なのだ。とにかく早く給食を食べ終えて、放送室に行かなくてはならない。放送当番の日は、給食のトレーを持って、一番におかずをよそってもらう。
想太と私は、今日の放送当番なのだ。
今日のメニューは、あんかけうどんと、豆腐ハンバーグ、野菜のおひたし。
よりによって、うどん!
汁を飛ばさないように慎重に食べると、時間のロスが大きい。しかも、困ったことに、このあんかけうどん、やたら、熱い。
想太と私は、汁を飛ばさないように気をつけながらも、大急ぎでうどんをすする。でも、熱いものは熱い。
「あちあち」
想太も私も、必死だ。
「あんまり慌てなくていいから。ゆっくり食べなさい」
担任の先生は言ったけど、遅くなると、リクエスト曲をかける時間が減ってしまう。
「あちあちあち」
牛乳で舌を冷やしながら、どうにかこうにか食べ終える。
「行くで」
「うん」
『あるきます』とでっかく書いてある廊下のポスターを横目に、2人小走りで、行く。
放送室は、職員室の中から入るようになっている。職員室の入り口で声をかけて、入らせてもらう。
「こんにちは。お昼の放送の時間です。今日の1曲目は、4年の“ぽよぽよ”さんからのリクエスト、HSTの『飛行機雲』です。どうぞ」
想太は、走ってきたばかりでも、落ち着いた声で話し始める。いつ聞いても、上手い。
曲が流れ始めて、アナウンスボリュームを下げると、想太は、ほうっと息を吐いた。
「今日は、ちょっとあせったな」
「うん。うどんは、ちょっとやばかったね」
「また、汁とばしてしもた……」
想太が困り顔で、服を見下ろしている。たしかに、うっすら汁のあとがある。
「しかたないね。でも、カレーほどやばくないよね?」
「まあなぁ……」
想太はちょっと浮かない顔だ。
「何かあるの?」
「うん。今日はさ、かあちゃんと一緒に、とうちゃんの舞台、観に行くねん」
「学校終わってから直接?」
「うん」
「そっかあ。でも、たぶん、カレーと違って、ちゃんと取れるよ」
「そうかな?」
「うん」
最初のコメントを投稿しよう!