大賢者クロム

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大賢者クロム

◇  雨だ。  最近はずっと雨が降っている。じめじめとした空気が嫌で、気分も乗らない。五月はもうすぐ終わる。梅雨の時期は着実に近づいていた。  窓の外を眺めながら、なんだか憂鬱な気持ちになっていた。 「赤間くん? どうしたのかしら? 雨がそんなに気になるの?」  突然の声にぼくはハッとして、慌てて先生の方を見た。 「(ゆう)は雨が珍しいんだよな? あははは」  クラスメイトたちがぼくを見ながら茶化してくる。ぼくの顔はカァーっと赤くなっていって、熱が出たときみたいに火照ってきた。 「はいはい、みんな静かに。赤間くん? 今は授業中だからね、ちゃんと前を向いて先生の話を聞くのよ? わかった?」 「……はい」 「よろしい。では気を取り直して」  そう言って先生は黒板に向かいチョークを走らせる。  その隙を突くように、周りの席にいた友だちがクスクスとぼくを小馬鹿にして笑った。その中でも特にムカついたのが、ぼくの後ろの席にいた垣井(かきい)だ。  お前まで一緒に笑うことないだろ。なんで教えてくれなかったんだよ。そう言いたかったけど、授業を聞いていなかったのは自分のせいだ。大きくため息を吐いてぼくは我慢をした。  その後授業が終わり、休み時間へと移る。周りの友人にさっきのことをいじられながらも、ヘラヘラとした態度でその場を乗り切った。 「ふぁー」っと垣井が大きなあくびをする。目は真っ赤で、なんだか顔色も悪い。 「体調悪いの?」 「いや、眠いだけ」  もう一度あくび。 「もしかして、またゲーム?」 「そう。二時だったか、三時だったか。最近はずっとそんな感じだよ」 「考えられないよ。よくそんな時間までゲームできるよな」  垣井は小学五年生にして、夜更かしをする悪い子どもだった。寝る子は育つとかなんとか言われていて、ぼくの家なんて夜の十時を過ぎたら「早く寝なさい」と急かされるというのに、こいつは深夜二時? そんな時間に時計を見たことなんてないよ。 「一週間前に買ったゲームがあってさ、それをここんとこずっとやってる。早くクリアしたいんだ」  垣井はゲーマーだ。話題のゲームはことごとくやり尽くしている。たぶんクラスで一番ゲーム好きなのは彼なのかもしれない。最新のゲーム機を持ち、パソコンを操り、スマホを駆使している。何度か垣井の家へ遊びに行ったことがあるけど、そのゲームの種類の多さにはいつも感動させられるほどだった。
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