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ぼくも垣井ほどじゃないけどゲームは好きな方だ。毎日やっても飽きることはない。特にRPGはやり込んでしまう。勇者となり、魔王を倒すというありがちなストーリーでも十分楽しめるのだから、ゲームを作っている人はすごいなぁと思う。
「そういやお前、まだあれ持ってんの?」
垣井が何気なく聞いてくる。
「あれって?」
「サイコロ。ちょっと見せてよ」
「いいけど」
ぼくは筆箱から手のひらに乗るぐらいの小さなサイコロを取り出した。黒い六面体のサイコロ。面に書かれているのは数字じゃなくて、白い丸が一つ、二つ、三つ、とそれぞれ描かれている。
垣井がそれを手に取っておもむろに机の上に転がした。不規則な回転をしたあと、出た目は五。
「五かー、今日はまあまあだな」
「なんだよそれ。運勢占いに使うなよ」
「いいだろ別に。どうせお前のじゃないじゃん」
そう。これはぼくのものじゃない、と思う。五年生のクラス替えをしたとき、最初に座った机の中に入っていたのだ。それを先生に伝えればよかったのだけれど、なぜかこのサイコロが気に入ってしまったぼくは自分の筆箱にしまうようになった。もし誰かが、それ俺の、とか言われたら返してもいいけど。
これは泥棒かな、と少し不安になったぼくは仲のよかった垣井に話した。すると垣井は、「こんなもん、誰が欲しいんだよ。お前だけだろ」と興味なさそうに吐き捨てた。それからはなんの不安もなくぼくの筆箱にしまわれている。ぼくにとってはお守りのようなものだ。これを見ると、なぜか安心する。
「あはははは」という笑い声が聞こえてきて、思わずそちらに目を向ける。
一人の男子の周りに女子が数人集まって談笑していた。
「わかりやすいぐらいモテてんなあいつ」
垣井が嫌味ったらしく言い放つ。
あいつというのは、水上明一朗のこと。あだ名はメーイチ。頭が良くて背が高くて、イケメンで。女子に優しく、面白い。運動神経抜群で、欠点が見つからないぐらい完璧な奴。
「そうだね」
メーイチのことは仕方がない。ぼくらとは出来が違うから。
かと思えば、そのすぐ近くでクラスに一人はいる暗い人間が視界に映る。後方の席で孤独に漫画を描いてる陰キャな女子。森遥風だ。大きな眼鏡を掛けた暗い女子で、彼女の周りに人は集まらない。不思議な世界だ、とつくづく思う。わかりやすいぐらいに対照的な二人。陽キャと陰キャ。もちろんぼくも陰キャの仲間に入るのだろう。
神さまは平等に人間をつくった訳じゃない。メーイチみたいな奴がいるから、ぼくらみたいな出来損ないが出てくる。世の中良くできてる。ほんとに。
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