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雨がすっかり上がった夕方、終わりの会が終わったぼくらは教室を出て昇降口で靴に履き替える。垣井と一緒に下校するのがお決まりとなっている。二人とも部活にも入っていないから、意味もなく近くの馬原公園という木に囲まれた公園へ寄って喋ったりするのが日課。
「あ、そうだ、うわ最悪」
「どうしたの?」
靴箱に上履きを入れて、靴を床に落としたところで垣井がそんな声を出した。
「今思い出した。今日、塾だ」
「へー」
「マジ最悪だ」
垣井はあからさまにテンションを下げていた。夜更かしをするぐらいゲーム好きな垣井だけど、学校の成績は優秀な方だ。ぼくとは違い、陰で努力をするタイプ。どれだけ寝不足でも、しっかりと勉強に時間を充てているところは凄いと思う。
「悪い、先帰るわ」
そう言って彼は校舎を後にした。一人になったぼくはとぼとぼとグラウンドを歩いていく。多くの人たちは運動部や文化部に入っていて、ジャージ姿でスポーツをしたり楽器なんかを演奏したりしている。
運動神経もないし、音楽にだって興味はないぼくは特にやりたいこともなく毎日をだらだらと過ごしている。結局ぼくはモブの一人。ゲームで言えば、村人Aのような人間だ。メーイチみたいな主人公にはなれないし、垣井みたいなサブキャラにもなれない。勇者一行が訪れた村で、「ようこそ」と言い続けるような居てもいなくても世界は変わらない存在。
はぁ、とため息が出たそのタイミングで、視界の端に動く黒いものが見えた気がした。それを目で追っていく。野良猫かなにかかな?
黒い影は校舎裏へと走っていく。思わずぼくはそれを追っていた。時刻は三時四十五分を過ぎたところ。どうせこのまま家へ帰ったところで、することと言えばテレビゲームぐらいだ。時間は有り余っている。
みんなが校門へ向かう中、ぼくだけはその流れに逆らうように校舎裏に歩いていく。
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