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雨は降り続いていた。
結局ラバンは街の宿に泊まり一夜を過ごした。リルも同じ宿に寝泊まりしている。
試験官はなぜか未だに遅れていて、試験は延期されるそうだ。彼女はそれを残念そうに感じていたが、仕方ないですね、と割り切っている様子だった。
ラバンは窓の外を眺めながら、一晩中考えていた。どうやったら南の大陸へ行くことができるのか。そのことばかり思考を巡らせていた。
朝方になり少しだけ眠る。目が覚めたときにはすでにリルは起きていて、一階の食卓には朝食の準備がされていた。食欲はあまりなかったが、軽食のサンドイッチを頬張りながらも頭の中は壊れた橋のことばかり。どれだけ考えても答えは出ない。この先、一体どうしたらいいのか。ため息が何度も出てしまう。
「あー、どうしよう」
店主の女性がなにやら困ったような声を出す。ラバンとリルはそちらに顔を向けた。
「どうしたんですか?」
リルがそう声を掛けると、彼女は椅子を両手で持ちながらそれを掲げるように見せてきた。
「この椅子、根本から脚が一本折れちゃって。今日は団体様の予約が入っていて、椅子が必要だったから倉庫から出してきたんだけど、どこかにぶつけたのか壊れてたの。こんなの自分一人じゃ直せないし。家具屋さんに頼んだら直してもらえるかしら」
そんなこともあるのか、大変だなぁ、としか思っていなかったラバンだったが、まだ食事の途中であったリルが席から立ち上がり、彼女の元へ歩いていく。
「ああ、確かにこれは根本から折れてますね。大変だ」
「そうなの。もうこんなときに」
「うーん、わかりました。私直してもいいですか?」
「え? 直してくれるのかい?」
「ええ。応急処置ですけどね」
「助かるわ。お客さんなのにすみませんね」
「いえいえ。助け合いの精神ですから」
「ありがとうございます。じゃあ、お願いしてもいいかしら?」
「はい。ただ、私は大工でも職人でもないので、椅子を修理することはできないんです」
「え?」
「その代わり、私は魔法使いなので、魔法で直しますね」
「魔法?」
店主がそう尋ねたときにはもう、リルはその折れた椅子に右手を当てていた。ラバンも立ち上がり彼女の元へと行く。リルがどんな魔法を使うのか興味が湧いていた。
目をつぶり、なにか力を込めているように感じる。次の瞬間、彼女は指をパチンと鳴らした。すると、折れていたはずの椅子の脚が元通りになっていた。
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