八、喪服

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俺は日野さんと顔を見合わせてから、首を傾げた。 「さあ、俺にはちょっと」 「私も」 失恋したばかりという事になっている俺と、バツイチの日野さんには、答えようがない。 「けど、まあ、良かったじゃねーか? 不倫って気付けて。そのままいったら泥沼だったぞ」 元気付けるつもりで言ったのだが、急に、浜やんが怒り出した。 「何ですか自分はイイ思いしたくせに!」 ギクッとした。絶対にバレていないはずなのに。 言い訳を考えつくより先に、浜やんが責め立ててくる。 「その頭だってどうせ結婚の挨拶行くからとかでしょ! 何ですか和泉さんとヨリ戻したんですか! ちゃんとしたヤツに見られたいからって、そんなコテサキの小細工して……!」 実は、相当抱えていたらしい。爆発したみたいに、八つ当たりでキレられてしまった。 珍しい事ではないが、浜やんにはたまに、こういう時がある。なぜそうなるのかという解釈に決め付け、発作のように目をむいて、刃物を振り回しそうな剣幕で怒るのだ。 力で勝てそうなので恐くはないが、実際にカッターナイフでも出されたらどうなるかとは思う。 昴が後ろから抱きつくみたいに浜やんを押さえた。 「はい、そう! 松田さん来たらっ! 松田さん来たら、聞いてみような!」 頼みの綱は、既婚者で2児の父で、昭和のトレンディドラマに出て来そうな男前なのに愛妻家の、松田さんしかいなかった。 良いタイミングで、工場の外から、キッ、と自転車の音がした。 「噂をすれば……」 と日野さんが安心したように言う。 松田さんに違いない。下の子を保育園に送ってから出勤してくるのだ。
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