八、喪服

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「もう今ドキ、死体とかじゃビビらないですよね」 昼休憩になり、話題は、浜やんの聞いてきた“本物の愛”から、“禁断の愛”へと変わっていた。 愛妻家で通っている松田さんが、ふざけて不倫は文化だとか言ったせいで、意見が割れてしまった。 休憩室のコの字型に並んだソファーに座り、全員で昼を食べながら、不倫は純愛なのか、禁断だからこそ燃えるのか、そんなことを、ひとしきり話していた。 そこで、浜やんが言い出したのだ。 今どきの、俺以上にインターネットに馴染んだ世代は、昴以上にネットで変な知識を手に入れたらしい。 「し、死体……?」 俺の隣に座った日野さんが、恐がったように聞き返した。 休憩室の席は暗黙の了解で、鈴木の爺さんから年齢順に2人ずつ、時計回りに決まっていた。 真ん中のソファーは1番身長があってごつい俺と、1番ぽっちゃりして横幅のある日野さんが使うのだが、もう少し何とかしてもらってもいいような気はする。 浜やんは一番扉に近い端の席に座っていた。 「えっ、知らないんですか?」 さっきキレた事も、失恋した事すらも忘れたかのようにケロッとして聞き返している。 「死体とやるって意味か?」 俺が聞くと、 「ははは、いやいや、それはありがちすぎ! 日本でもとっくの昔にサイコキラーがやらかしたりしてるんで!」 何がおかしいのか、ケラケラ笑いながら答えた。 ありがちの基準がおかしいが、いちいち指摘していたらキリがない。 昴も時々恐いことを言うものの、それは冷めたような、諦めたような態度で、浜やんの場合は、それこそサイコな発想に片足を突っ込んだ感じだ。 平成生まれとひと口に言っても、少し種類が違う。 それに、俺と2人の時はあんな感じの昴でも、後輩がいると少し態度が違う。 「海外だと死んだ人とも結婚できるし、子供作れるんスよ」 こんな風に、危なげがない感じに補足するに留まっている。
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