八、喪服

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「それはネタだろ。ゴタこいてんじゃねーぞ?」 信じられなくて言うが、昴も昴で譲らない。 「マジです、マジですってば! 科学の進歩ナメちゃいけないッス!」 そんな言い合いをしていると、ローテーブルを挟んで浜やんの向かいに座った鈴木の爺さんが、ぽつりと口を開いた。 「──男同士だな」 また俺は、ギクッとした。分かってる。世間的に見て、今の俺が隠している事がおかしいのは。 まして俺の親戚世代の爺さんにとっては、有り得ないと思われても当然だ。 「うわ。差別」 浜やんがバッサリと言った。 「爺さーん、それは差別ですよー今の時代」 後輩として、早めに来て清掃なんかはしているが、相手が50近く離れた大ベテランだとか、年功序列とかは、あまり関係ない。 去年話題になった忖度という言葉を、浜やんと昴は知らないようだった。言葉の意味は理解できても、それを実行しようという気にならないらしい。 「でもなぁ……どうなのって正直僕も思うな」 爺さんの隣に座った松田さんが助け舟を出しても、 「はい、それ! 自分が既婚者だからって、言っていい事と悪い事があります!」 浜やんは持った箸をその松田さんに向けるだけだ。 隣に座る昴がそれをやんわり下ろさせながら、 「松田さん、どうするんスか? 例えばここにいる、一緒に働いてる勝さんが、本当は男の人しか愛せなかったら?」 と、まるで教えを説くかのように聞いた。 またまた、ギクッとさせられる。 他の人間が偶然口にするのと違って、昴だけは、何かが見えているような気がする。 こんな男所帯の中で、よりによって俺を選んできた。本当に警戒するべきは、こっちなのかも知れない。 昴と浜やんが追い詰めてくる。 「一緒にロッカーで着替えるの嫌がったりするんスか?」 「差別です、差別差別!」 この中では1番若手で体も小柄な2人だが、存在感は強い。
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