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一気に、耳まで熱くなる。
一昨日の夜という事は、散髪に行った時にも、絶対に見られているはずだ。何も言われなかったが。
後ろの部分を確認するために鏡を見せられて、なぜ自分で気が付かなかったのか。
髪を短くしたのも、これを見せびらかすためのように思われてしまう。年甲斐もなく。
裏返った声が出る。
「いやっ、あああの! こっ、これは別にっ、そういうんじゃなくて……!」
両手で首の後ろを押さえて体を反転させた。勢い余って、バン! ガシャン! と背中がロッカーにぶつかる。
言い訳をしようとするが、一向に言葉が出てこない。むしろこんなに分かりやすく焦ってしまっては、そうですと言っているようなもんだ。
焦る俺を見た松田さんが、上を向いて笑った。
「あはは、いいっていいって! 見つけたの僕だけでしょ? しばらくタオル巻いときな。大丈夫だって」
そう言われれば、着替えをしている時は誰からも何も言われなかった。真横で着替えていた日野さんにも、気付きやすい昴にも。
多分、身長の問題だろう。工場の皆は平均かそれより小柄な中で、松田さんだけは俺と同じくらいあるから見えたらしい。
不幸中の幸い……いや、不幸と言うべきかは分からないが。
「吸血鬼ね、いいじゃんいいじゃん。このこのー」
松田さんは明るく言って、肘で突いてきた。
それから廊下の方をうかがった後、少し小声で、
「ちゃんと真剣なんだよね?」
と確認してきた。
そんな事を聞かれるとも思っていなかったので、マヌケな声が出てしまう。
「は、えっ? あっ、それは、まあ……」
「勝っちゃんみたいのってチャラそうに見えて意外と一途だし、女の子取っかえ引っ変えする感じじゃないもんね」
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