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タオルを巻き直し、絶対に見えないよう引っぱってずり上げながら聞き返す。
「それは良い意味ですよね? 俺がモテなそうって事じゃないっすよね?」
そういう意味で言われているのではないのは、伝わってくるが。
松田さんもまた笑って手を振った。
「やだなー、単純に嬉しいんだよ。僕みたいなおじさんは、若い皆の奥さんとか、子供の顔見せてもらうの楽しみなんだから」
奥さんとか子供、という言葉に違和感を感じてしまうのは、やっぱり今の俺がもうおかしいからだ。
槐さんに出会う前なら何とも思わず、良い返事をしていたはずだ。
俺に新しく出来た恋人が男だなんて、松田さんは想像もしていない。いや、そんな発想すら無いのだ。
ついさっき話していた“禁断の愛”を何重にも重ねている男が、同じ職場に、目の前にいるなんて事は、有り得ないんだから。
「年齢的にも、次は勝っちゃんだもんね。でも昴ちゃんと浜ちゃんにも聞かないと」
松田さんは嬉しそうに言って、肩を回しながら事務所の方へと歩いていった。
誰もいなくなったのを確認して、忍び足で扉の近くにある鏡に近付く。
背中を向け、少し屈んでスマホのインカメを起動した。左手で、巻き直したタオルを引き抜き、作業服の襟を倒してみる。
首の後ろには、確かにくろねがあった。
範囲も広いし、キスマと言うよりは、殴られた痕みたいだ。
暗に元ヤンと思われているのは分かっている。こんなイカつい男ならケンカしたと誤解する可能性の方が高いだろうに、松田さんは見抜いてきた。
若い頃はそれこそ女の子を取っかえ引っかえして遊んでいて、家庭を持ったら落ち着いたタイプなんだろうか。
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