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男が俺に気付いて、何か言いながら、苦しそうに呻くのが聞こえる。
冗談じゃない。いちばん苦しいのは俺だ。
何とか槐さんから離れさせるように、ベッドから引きずり下ろした。
男がもがいて、首元に手を伸ばして、食い込む帯を外そうとしている。日本語だろうと外国語だろうと聞き取れない。
相手の背も俺より高いのが分かった。これを離してしまえば、そのまま反撃される。そうなったらひとたまりも無い。
槐さんが男の下から這いずり出して、床に転がった。
「忠義くん、何をして……!」
細くて熱くなった体で俺の脚に取りすがってくる。
やめてくれ、と言っているのは聞こえる。
もっと焦れよ。せめて、浮気現場を見られた時の彼女くらい。
みっともなく慌てて、取り乱して、これは違う、そういうんじゃない、と説得力の欠片もない言い訳くらいしてくれ。
それくらいでないと、俺の立場が無い。
「しゃらうるせえ! 外人のデカマラがそんな良かったかよクソビッチ! お前は俺のモンだろうが! 向こう行ってろ!」
槐さんに向かって怒鳴りつけた。
もう、誰に腹を立てればいいのか分からない。
どうするべきかも分からない。
ただ、絶対に手を離せない事は確かだ。
それなら、首を絞め続けるしかない。例え相手が死んでも。
いや、むしろ殺してやる。
俺の部屋に勝手に入って、俺の恋人に手を出した。それなりの報いは受けるべきだ。日本人だろうが、外国人だろうが、関係ない。
視界の端でバタバタと槐さんが動いて、風呂場の方に走っていったのが分かった。
やっと俺の言うことを聞いて、避難する気になったらしい。
槐さんが俺にしていたように、帯の端を手首に巻き付けて、ぎりぎり絞め上げる。さらに自分の膝で男の背中を押していた。
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