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どしゃ降りの中、アパートが見えなくなる所まで夢中で走っていたが、ついに息が切れて、足を止めた。もつれて、倒れそうになる。
何とか踏ん張り、膝に手を突いて、ぜえぜえと息をした。
出てくる時は必死だったから、傘の事なんか頭に無かった。
もう全身ずぶ濡れで、その場にうずくまりたくなる。
まだ、もっと、遠ざからなければ。あの人をひとりにしなければ。
今はとにかく、俺はあの人の近くに居るべきじゃない。
その意識だけで、サンダルを引きずって歩き出す。あれだけ頭に血が上っていたのに、今は熱が奪われて、指先まで冷たかった。
何も考えずしばらく歩いて、やっと、マンションが見えてきた。
早く部屋に戻って倒れ込みたい。
そう思いながら、無意識に癖で、ポケットを触っていた。
その瞬間、血の気が引いた。
スマホが無い。
思わず立ち止まって、来た方向を振り返った。
どこかで落としたのだ。今までこんな事は1回も無かったのに、よりによって、こんな豪雨の中で。
どうやって探せばいい。
酸欠状態の頭を必死に回転させる。そもそも、いつから無かったのか、思い出そうと。
少なくとも、アパートに行く前はあったはずだ。
もう1度、全部のポケットを触った。サイフと、タバコはある。
確かにこのハーパンのポケットは浅いが、走って落ちる角度じゃない。しゃがんだり、座ったりするでもなければ……。
そこで、思い当たる事があった。
「……ああ」
もう、引き返せない。
諦めてまた、マンションに歩き出す。
もし、そうじゃないとしても、どうせ槐さんから連絡が来る事はない。
これ以上、何か考える力も残っていない。
誰かから連絡があっても、今は対応できる精神状態じゃない。
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