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決意を固めた絹江は、ポーチの中から『現世チケット』を取り出した。チケットの裏面に記載されている、太枠内の注意事項に目を通す。
「下界に帰れる時間は、虹の門に置いてある水時計が溢れるまでの3時間。水時計は門番が管理していて、下界に戻った瞬間から時計が刻み始める。制限時間の5分前には、私たちにしか聞こえないベルの音で知らせてくれる。時間になっても戻ってこなかった場合、強制的に天へ送り返される……へぇ、結構親切なのねぇ」
いくつもある注意事項を読み返した絹江は、一番最後に書かれている文章に目を通した。
「現世に戻っている間、誰かにのりうつる事も可能。しかし、自分の名前や身元が分かるような情報を誰かに明かそうとしたら、その瞬間に強制的に天へ送り返される。へぇ……こんな事もできるのねぇ」
チケットをポーチの中に戻した絹江は、下界へ戻った時にやりたいことを語り合っているヤエと梅子の会話に耳を傾けた。
「わたしゃね、じいさんに憑依してやろうかといっつも思うんですけどね。いっつも掃除するじいさんの姿を近くで見守って、それだけで帰ってきちゃうのよぉ」
「あら。梅子さんったら、意外と慎ましいのねぇ。かくいう私もねぇ、楽しそうにしてる親戚一同の姿を、遠くから眺めることしかできないのよねぇ。そうそう、絹江さんは下界に帰って何かしてみたいことはあるの?」
ヤエと梅子の視線を集めた絹江は、ニコッと口角を上げて誇らしげに言った。
「私はね、可愛い孫との約束を果たしにいくことに決めたわよ」
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