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仏壇の前で正座をした香織は、手に持っている封筒を棚板に置いた。2週間後に控えている、結婚式の招待状だ。座布団の手前で一礼した香織は、香炉に線香を立て、おりんを鳴らして合掌した。
――おばあちゃん、久しぶり。天国でも元気にしてるかな。香織ね、結婚式挙げることになったんだよ。
あのさ、香織が小さい頃、おばあちゃんとした約束覚えてる?
お母さんの結婚式の写真を見せてもらった時、おばあちゃんがドレスを作ったんだよって聞いて本当にびっくりしたんだよ。香織もこのドレスを着たいーって大騒ぎした後、テーブルの角に頭ぶつけて大泣きしちゃってさ。
絶対このドレスを着て結婚式するから、絶対来てねって言ったこと覚えてる?
おばあちゃんが言ってくれた、あの約束、覚えてる……?
ごめんね。その約束、果たせなかったね。もう少し早く結婚できてれば良かったんだけどね。遅くなっちゃって本当にごめんね。ドレス姿、直接見せられなかったけど、絶対写真持ってまた会いにくるからね。おばあちゃんが縫ったドレス着て、綺麗なお嫁さんになるからね。
目を開けた香織は仏壇に飾られている、華やかな笑みを浮かべた祖母・絹江の写真を見つめた。
上京してからは仕事を理由に、なかなか帰省できなかったことが今だ悔やまれる。まさか婚約が決まった去年の冬、あんなに元気だったおばあちゃんが亡くなるだなんて思ってもいなかった。
おばあちゃんともっと話したい事、おばあちゃんに教えてほしい事がたくさんあったのに。おばあちゃん孝行あまりしてあげられなくてごめんね。
雲の隙間からでもいいから、晴れ舞台を覗きに来てくれればいいのにな――。
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