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約束の結婚式
「わぁっ……ありがとうございます。リハーサルの時以上に、私好みの仕上がりになりました」
「それは良かった。佐伯様、とってもお綺麗ですよ。今日という一日が、記憶に刻まれる素敵な一日になりますように」
ヘアメイク担当の鈴木さんと衣装担当の松下さんのお陰で、今までの人生で一番輝きを纏っている自分の姿が鏡に映っている。おばあちゃんが作ったウェディングドレスを着ると、自然に背筋が伸びて心が引き締まる感じがする。
「それにしても、本当に素敵なドレスですよね。しかも、佐伯様のおばあ様が作ったとのことで……おばあ様も絶対に喜んでいますね」
「松下さんにそう言ってもらえて、おばあちゃんも喜んでいると思います。今日の結婚式も、雲の隙間から覗いてくれてると思うんです」
今日、久々におばあちゃんの夢を見た。和室で友人達と円を作るように座って、話に花を咲かせながら指先を動かしているおばあちゃん。深い皴が刻まれている指先で、百合のようなアーティフィシャルフラワーと天然石を組み合わせたアクセサリー作りをしていた。そして、はっきりこう言ったことを覚えている。
『孫の香織とね、約束をしているのよ。それでね、結婚式へ行くことに決めたのよ』
おばあちゃんは約束を覚えている――だから、夢で逢いに来てくれたんだよね。ありがとう、おばあちゃん。今日はおばあちゃんが作ったドレスを着て、いっぱい空に向かって笑顔を贈るからね。
「佐伯様、最後に少しだけヘアの調整しますね。よっと……これでよし!それでは、挙式会場へ向かいましょうか」
「はい。鈴木さん、色々ありがとうございました。またお色直しのとき、宜しくお願いします」
心臓の鼓動と共に、一歩一歩ふっくらとしたカーペットの上を歩む。緊張が走る背中には、誰かが近くで見守ってくれているような温もりを感じた。
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