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目玉焼き、ウインナー、バタートースト。それから紅茶。すっかり冷めてしまってはいたが、兄が用意してくれたご飯は美味しい。
そして、それを食べ終わって片付けたところで、ようやく俺達兄弟も落ち着いてきたのだった。
今は夏。そして、リビングのエアコンはつけっぱなしだった。律儀な兄が、切り忘れていったとは思えない。俺達がまだ寝ているから、快適な温度のままつけっぱなしで出ていってくれたのだろう。
そして、ちゃんと準備されていた朝食に、ベランダに干し終わっている洗濯物の数々。そこまで丁寧に家事を終わらせていった兄が、馬鹿なことを考えるだろうか?それだけのことができるほど、冷静な判断力があったということ。ちょっと天然ボケなきらいはあるが、難関進学校に合格できたくらい頭のいい兄だ。やっぱり、やぶれかぶれになった状態で出て行ったとも思えない。
「そもそも、俺達のこと溺愛しまくりの兄貴だぜ?」
自分で言うのもなんだけど、と俺は付け加える。
「でもって、俺達のことは小さな頃からよーくわかってる兄貴だ。自分がいなかったら、我が家が……つーか俺達がどうなっちまうか、すぐわかりそうなもんだ。マジで死ぬつもりだったとしても、父さん母さんが旅行でいない日を選ぶわきゃない」
「そうだね。調理実習で電子レンジを爆発させた僕と、オーブンを爆発させたタツキ兄ちゃんだもんね。掃除したら三秒で散らかすし、最近になってやっとお皿を割らずに洗えるようになった僕達だもんね。サツキ兄ちゃんも、僕達だけで放置していったらやばいってわかってるよね」
「おうそうとも。……つか、カツキ。それ自分で言ってて空しくなんねえの?」
「……とっても空しいです」
そうなのだ。お父さん譲りの器用さを受け継いだのは、兄のサツキのみなのである。俺と弟は究極的に不器用で、調理実習のたびになんらかの事件を起こしている猛者だった。母さんも父さんも、俺と弟のキッチンへの出入りを禁止するほどだと言っていい。
まあようするに。俺たち二人だけ家に残して言ったら、どんな惨劇が起こされるかわかったものではないのである。
少しでも兄に冷静な判断力があるなら、両親がいないタイミングで自殺や家出なんて絶対選ばないはずなのだ。俺達のことをうっかり嫌いになったなら話は別だが、自他ともに認めるブラコンの兄が急にそんな風になるとも思えない。
「でも、疲れたっていうのが気になるんだよね。サツキ兄ちゃん、何かあったのかなあ……人間関係トラブル?テスト勉強疲れ?ブラック部活?」
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