13人が本棚に入れています
本棚に追加
「わ、悪い。あれを使おうかどうか一瞬迷っちまったんだ」
「いや、いい。お前、今回はあれを使う選択肢は頭から外しておけ。お前の身体能力なら、生身のままでも十分立ち回れるだろう」
「ああ」
「決着は俺がつける。奴を捕まえるにはそれが必要だ」
犬山の運転で2人は京極家へ向かっていた。窓を開けて外の景色を見ながら煙草を吸っている月岡に、犬山は疑問を投げかけた。
「千尋」
「月岡だ」
「考えてもまだいまいちわからないんだが、どうしてあの警察官が付喪神だとわかったんだ?」
「……面倒くさい」
「はあ?」
月岡は静かにため息を吐いた。
「説明するのが面倒くさい。どうせ奴はもう朝まで動かないからな」
「なんでだよ!」
「だいたい次の動きはわかってんだ。もう、手数はないからな。……コンビニに行ったとき、俺が中年太りした警部を殴ったのは、奴に俺が正体を見抜く術がないと思わせるためだった。こいつは殴る、蹴るなど物理的な行動を取らなければ、誰が本物で誰が偽物なのかを判断できないバカなんだと思わせるためのな。だが、そうじゃないとわかった以上、奴はさらに巧妙な手段で誰かに化けようとするだろう。その準備のためには、もう今日は動かないはずだ、とそういうことだ」
「じゃあ、誰に化けるか検討はついてるのか? 今回のも最初からあの警察官に化けると」
「ああ罠を仕掛けといたからな。警部を殴ったあとに、わざと言ったんだ。『妖が力のないやつで一発殴ればすぐにわかる』、そして『あんたは違うだろ』って言うようなことをな。だから、奴はあえて部下に化けたんだよ」
「なんでだよ? 今の話からすると、力のあると言われた警部に化けるんじゃねぇのか?」
月岡は吸い終わった煙草を携帯灰皿に捨てると、窓を閉めた。
「だからだよ。奴は俺がそう判断すると思って、逆をついたんだ。そして、俺は奴が逆をつくだろうと予測して行動した。それだけだ」
犬山は、感嘆なのか呆れなのかわからない声を出すと、「よっぽどお前の方が詐欺師みたいだな」と呟くように言った。
月岡は応えることなく流れる景色を見つめていた。車窓に映る瞳は0時を回っているというのにまだギラギラと輝いている。
「なんでだろうな」
「あっ?」
「いや」
(……辻褄が合わないことが多い。なぜ奴は、こんなことをしている?)
助手席の背もたれが倒された。
「なんだ急に」
「寝る」
「はぁ? お前、助手席の役割果たせよ」
月岡は返事の代わりに、やる気なく右手を上げた。
(しょせん妖のすることだ。一貫性を求めるのがおかしい)
最初のコメントを投稿しよう!