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京にいる間、月岡は京極家の一室を借りてーー正確に言えば押しつけられて生活していた。離れとはまた違う、屋敷とは離れたところにぽつんと建てられた一室。石畳は繋がってはいるがなぜか他の部屋とは隔絶された雰囲気のある部屋だった。
(曰く付きでもあるのか?)
客人を通すには使用感のある部屋だった。部屋の隅に置かれた簡素な本棚には妖関連の本が並んでいた。前にお菓子のレシピでもないかと物色したときに見つけたのは、『正しい妖怪との付き合い方』というタイトルの本だった。
ふざけたタイトルにも見えるが、明らかに部屋の持ち主の趣味が現れている本だと思い、本棚にそっと戻した。それからは一度も本棚に近づいてはいない。
直感で思ったのは、部屋の持ち主はもうこの世にいないということだった。
「さてと」
(どうでもいいことを考えるのはやめだ)
布団から起き上がると、十分とは言えないまでも睡眠を取って少し働くようになった頭で今一度捜査資料に当たる。
(どうにもやはり引っ掛かる。奴の行動にはどこか妙な部分がある気がする。何かーー見落としていることが)
詐欺事件自体は単純だ。被害者をうまいこと誘導して、保険の契約解除を勧め、解約返還金と被害者が保有していた金品、現金を奪った。被害者は誰もが自分の意志で詐欺にあったことを訴えている。
(たとえば、ここで被害者が加害者を庇っていれば、本当に詐欺を働いたのか疑問が生まれるのだが……)
普通と違うことと言えば、どの被害者も先に配偶者を亡くしているという点だ。付喪神はそれを利用して、配偶者になりすまし被害者に近づいた。
『え゙っ!? ……まじかよ。幽霊か妖が! って騒いでもよさそうなのにな』
唐突に思い出したのは、犬山のあの言葉だった。
(……待てよ。この点は、後から判明したことだ。最初、警察では妖とは関係なく普通の詐欺事件として捜査を進めていた。妖の存在に気づいたのは、あの双子当主)
今のところ最後の被害を受けた若い未亡人は、最初の通報は近所の人だった。そのあと、事情聴取のなかで詐欺に遭ったことを訴えてはいるが。
月岡は資料のその箇所をトントン、と何度か指でついた。
(……ここか。ここだな。疑問は最初からあったが、ここにあの付喪神の行動の原因がある気がする)
確認をしようと、スマホに手を伸ばしたが、辺りが急に騒がしくなった。いつもは森の中にでもいるような錯覚を覚えるほど、静寂に包まれているのに、あちこちでバタバタと足音が聞こえる。
(これはーー)
ノックもせずに扉が乱暴に開けられる。
「千尋! 大変だ! 奴が屋敷に侵入した!」
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