付喪神コンチェルト

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(完全に決着をつけるには、奴の動機をも明らかにしないといけない)  ラジオから軽快な音楽が流れる。月岡もときどき耳にする流行りの音楽だ。  付喪神が行くであろう目的地へとタクシーを飛ばしながら月岡は考えていた。一応、乗車前に確認はしたが、付喪神がタクシー運転手に化けるなんてことはもうない、と確信していた。二度も同じモノに化けるなんて、面白くないからだ。 (動揺しているように見せて、その実ある目的のために動いているはずだ。狙いが正しければ、おそらくきっとあの家にはもう誰もいない。問題はそこではなく、なぜそうしたか(・・・・・)、だ)  月岡は目を瞑り、腕と足を組んだ。人差し指で無意識にリズムを取る。 (……付喪神は、長年大事に扱われてきたモノが妖になったもの。ならば、行動原理は元々のモノに規定されるはず。奴は台本だから、役者として振る舞っている。わざわざ、第二幕だの言ってるのも、その自意識の表れだろう。だが、本来は持ち主の元にいないとおかしい)  鋭い目を開く。眉間にシワが寄っていた。 (奴のタクシーに乗ったとき、奴は否定していた。棄てられていない。解放されて自由にやってるだけだと)  リズムを取っていた指が止まった。 (あの言葉がーー奴自身の思いじゃないとしたら? 実はまだ持ち主に束縛されているとしたら? ……奴は先に配偶者を亡くした女性ばかりを狙って詐欺事件を起こしている) 「ーーもしかすると」 「ん? お客さん、どうかしましたか?」  バックミラー越しにタクシーの運転手が顔をうかがってきた。 「いや、なんでもない。ひとり言だ」 「ひとり言ですか。随分と険しい顔で悩んでいるようで。仕事ですか? 恋愛ですか?」 (……なんだ? タクシーに乗ると話しかけられる呪いでもかけられたか?)  馴れ馴れしい手合いは月岡が最も嫌いな部類の人間だ。そっと目を閉じて会話を無視する。  急にラジオの音が大きくなった。 「ーーいや、すみません。ちょっと好きな女優さんの話題になったもんで」 「女優?」 「ええ。知りませんか? 音葉(おとは)和咲(かずさ)っていう。ほら、芸能界を電撃引退して、若くして亡くなった」  わからない様子の月岡にタクシー運転手は困った顔をして、さらに情報を付け足した。 「ほら、『全ては演技の上で』の主演で出てた女優ですよ。私、あの映画からファンになってずっと応援してたんですから」  墨を垂らしたような月岡の黒い瞳が瞬いた。 (……女優……全ては演技の上で……演技……? まさか!?) 「運転手! その話、もっと詳しく聞かせてくれ!」 「えぇ? 私、このラジオ聞いてるんですけど!」 「すまないが、重要なことなんだ!」 「わかりましたよ~もう!」   
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