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現場についたのは、もう昼近くだった。月岡は貴重な情報を得たことも含めて礼を述べてタクシーから降りるとその家を見上げる。
最後の詐欺事件となった未亡人の家だった。詐欺の対象にはならなそうな2階建てのごくありふれた一軒家だった。
(資料によれば子どもはいないらしい。この家に一人で住んでいる、と)
綺麗な庭だった。玄関までの直線はオレンジと白の格子状のタイルが敷き詰められており、左右にはしっかりと手入れされた芝生が広がっている。左手の花壇には白いカーネーション、そして右手にはピンクのカーネーションが咲き誇っていた。タクシーの運転手が言っていた若くして亡くなった女優ーー音葉和咲が生前、好んでいた花らしい。
玄関先でインターホンを押す。一分ほど待ってみるが反応はない。もう一度押してみるが結果は同じだった。
月岡は郵便受けを開けて中身を確認する。新聞の類はないが、けっこうな量の郵便物が届いていた。
(やはり、な)
もうここには住人は住んでいない。月岡はそう確信した。
(とすると、やはり奴の狙いはーー)
煙草を取り出す。後ろから足音が近付いてきた。足音から察するに大柄な男だ。
「……第四幕の開始か?」
振り向かずとも誰が近付いてきたのかはわかっていた。
「幕はずっと上がっているよ」
「そうか……そうだな。確かに幕は一度も下りていない」
警部の声だった。だが、話しているのは標準語。
「あんたの狙いは最初からここにあったわけだ。操作を撹乱し、そして、ここの住人を逃がした。別の場所に移り住むのだって、何日間か時間はかかるからな」
「……そう。そこまで気づいているのなら、わかるだろ?」
月岡はおいしそうに煙草の煙を吐き出すと、くるりと振り返った。
「わからないね。どちらにしてもあんたはすでに犯罪をおかしている。理由なんて関係ない。犯罪者を捕まえるのが俺の仕事だ」
警部の顔をした付喪神は、大きくため息をついた。
「……そうだな。それはきっと正しいことだ。だけど、カーテンコールまではまだ時間がある!」
警棒が思い切り振り下ろされた。月岡はそれを後ろに避けると、付喪神は警棒を投げ捨てて一目散に逃げていく。
「逃がすわけねぇだろ。すぐに終わらせてやるよ!」
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