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「最初は年配の女性ばかりを狙っていた。若い女性よりは年寄りの方が、まあ騙しやすい。ところが、詐欺はいずれバレる。いくらあんたが稀代の名俳優だとしても、近親者をずっと騙し通すのは無理だ。京極柊が京極楓に化けていたのをすぐに見破ったように」
さっきまでは人影がまばらだった河川敷にぽつぽつと人の姿が増えていく。
「詐欺は露呈し、その度に新しい人間を探す羽目になった。そこで最後に出会ったのが、あんただった。最初は同じような目的で近づいたんだろう。だが、これまでの被害者と決定的に違う点は、今言ったように詐欺だと知っていても、偽物だと知っていても、付喪神、あんたを受け入れたということだ」
夕暮れから薄暗闇に変わるに連れて河川敷には恋人同士が多く集まるようになってきた。3人を暗い影が覆っていく。
「問題は、そのあと。あんたら二人の生活にヒビが入る事件が起こった。隣人からの通報だ。あんたらの間では当たり前だった生活も、幸せだった生活も、周りから見れば異常なものに見えた。付喪神の姿は生前の配偶者そのものだ。死んだはずの人間が生き返る道理はない。そして普通の人間は、妖の存在を想定しない」
月岡は、煙をくゆりと吐いた。煙の向かう先を目で追いかけると、仲睦まじい人間の恋人同士が肩を寄せ合い談笑している。パッと見て妖だと思う存在は一人もいない。
「だから、訴えたんだろ? 付喪神を。そして、付喪神は姿をくらまし今回の一連の騒動を起こした。捜査の目を全て自分に向けることでどこか遠くへ引っ越す時間をつくった。二人で暮らすにはこの地を離れるしかないからな。あんたは事件を起こし、警察の捜査が集中したとしても姿をくらませる自信もあった」
最後の煙草を吸い終わると、月岡は二人の傍でしゃがみ込みこう言った。
「顔を上げな。立派に二人とも犯罪者だ。一緒に逮捕してやる」
観念したように、二人は同時に顔を上げた。暗闇の中で二人の表情はよく見えない。それでもその息遣いが他の恋人同士と変わらずピッタリだということは、月岡にもわかった。
月岡は立ち上がると、スマホで電話をかける。
「ーーああ、捕まえた。容疑者は二人だ。応援を呼んでくれ」
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