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「はい、お客さん、どこまで?」
「この住所まで行ってくれ」
「はいはい。……お客さん、これやったらタクシーでないし地下鉄で行った方が早いと思うんやけど」
「いいから行ってくれ」
月岡は被害者宅へとタクシーを向かわせると、すぐにスマホを取り出してどこかへ電話した。
2コール目で相手の主は電話に出る。
「あの、えぇっと……」
「吉良! 説明してる暇はねぇ。相手は付喪神だ! それも使い古された映画の台本が変化したものらしい」
「付喪神? 割と古くから人と共存してきた人畜無罪な妖のはずですが」
「京極のとこの双子当主によれば、そいつは人間に化けられるらしい。狐や狸も化けたりするが、そいつの場合、元々映画の台本だからとかってふざけた理由ではるかに上手く化けるんだとか」
「ええっとちょっと待ってください、今、電話切り替えます」
スピーカーモードに切り替わったらしい。本棚から乱雑に資料を取り出す音が聞こえる。
構わず月岡は続けた。
「詐欺事件だ。詐欺師なんだよ、そいつは。夫を亡くしたばかりの未亡人だとか、耄碌しかけてる婆さん相手に金銭を巻き上げる詐欺師だ。事件自体は京の街で何度も起こっていたらしいが、それが妖のもんだとわかったのはつい最近。京極が事件の不審点を見つけて繋がったんだ」
慌てた足音が電話口の近くに戻ってくる。
「いいですか、月岡さん。付喪神は、百年間大事にされたモノが妖へと変化したものです。まあ、実際には百年というのは長い年月を指しているだけで、そこまで経たずとも変化する妖もいますが。ただ、付喪神が人間に反抗した、というのは古道具が大量に捨てられそうになった際に人間に対して一揆を起こしたーーくらいしか事例がないんですが」
「……つまり、この化け台本は、大事にされた挙げ句に棄てられてしまったということか?」
月岡が自分の推理を呟いた途端、タクシーが急ブレーキをかけて止まった。シートベルトを怠っていたために頭や肩を窓ガラスにぶつける。
「ってめ、痛えじゃねえか!?」
タクシーの運転手は全く動揺した様子も見せずに振り返ると笑顔になった。
「いややなぁ。棄てられてなんておりまへん
。解放されて自由気ままに生きてるだけや」
「……なっ?」
ドアが開く。運転手は前を向くと、アクセルを思い切り踏んだ。急加速する衝撃に耐えきれずに月岡はタクシーの車内から投げ出されてしまった。
「ーーっつ……」
「大丈夫ですか!? 月岡さん!」
歩道に落ちたスマホから吉良の心配そうな声が響いていた。
「付喪神だ」
「えっ!?」
「だから今の運転手が付喪神だったんだよ!」
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