世紀末は君と映画と

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「このシーン間違ってるわよ いまガブ飲みした薬、動物用だから人体には悪影響」 「そんな無粋な事言わないの 映画の小物なんだからさ」 「だからこそよ 動物病院に逃げ込み応急手当するシーンでちゃんと動物用の薬を用意したのは素晴らしいわ だけどだからこそ詰めが甘くて気になっちゃう」 「それはそうかも でもペットの薬なら飲んでも大丈夫でしょ この主人公はプロの殺し屋で訓練された超人だし」 「いやいやあの薬は家畜用よ だから街中の動物病院にあること自体がおかしいし、人間があんなに飲んだら幻覚見ながら痙攣してそのままポックリ」 「なるほどそれは気になるね」 「あ、武器を探し始めたわ 確かにメスや消毒液もいいけど、受付に隠してあるスタンガンもオススメよ」 「冗談かホントかわかんないな そんなもの隠してあるのかい?」 「実際使ったから間違いないわ 暴れる飼い主を黙らせたの そのせいでクビになったけどね」 「え?クビになったの?」 「言ってなかったかしら ちょうど昨日よ」 「昨日かぁ なら仕方ない」 「ねぇ、この明星薬って結局なんなの? ちょこちょこ主人公が飲んでるけど」 「わからない 一応組織が配ってる覚醒剤というか、飲むと超人的な力が手に入るらしい」 「なにそれ 説明無いまま進むから気になってたのがバカみたい」 「それこそ無粋さ この映画は考えずに見るのがマナーだよ お!ここから注目!この映画の有名な山場!」 「なんかネットで見た気がするわ」 「本当は動物病院に一晩泊まり、明朝敵の本拠地へ乗り込んで激しい銃撃戦を撮る予定だったんだ ところが予算不足と圧迫されたスケジュールのせいで大幅変更」 「だからって動物病院でドンパチする必要あった?」 「監督が自棄になっちゃってね でもだからこそ産まれた疾走感と無茶苦茶な展開がたまらないのさ ほら、前半で意味ありげに登場したキャラが犬に看取られて死んだでしょう」 「多少の粗を力で黙らせる筋書きは嫌いじゃないわ でもそう聞くと絶妙にシュールね」 「本当は別な場所で撮るはずのシーンを動物病院で撮ってるからね あとは全体的に爆薬が余ったから使い切るためのバトルが始まる」 「なんで舐めるようなアングルで爆発をネットリ撮ってるの? 絶対にいらないシーンじゃない 明星薬のおかげでスローに見えるとか腹立つわ」 「大幅変更したせいで尺がちょっと足りなくなってね 監督が日本の特撮好きで爆発マニアだから、ここぞとばかりにねじ込んだのさ」 「え?爆発シーンで尺稼ぎしてるの?大馬鹿ね さっきから行き当たりばったりというか、全体的にガバガバじゃない?」 「そこがいいんだよ 確かにストーリーは酷いけど、監督の癖が徹底的に詰まった120分だから惹きつけられるというか」 「つまりはオタクやマニアに刺さる映画ってわけね そういう裏話も含めて」 「正しくその通り 良くも悪くも輝く名作さ」 「確かに面白かった 頭空っぽで雑に見て満足できるから癖になりそう」 「さてお次は何を見る? 難しくて疲れる本格ミステリー とにかくグロテスクなバカホラー なんでもあるよ」 「その前にニュースをチェックしましょうよ もしかすると生き残りが放送してるかもしれないわ」 「どれどれ おっ、ホントに放送してた 見上げたジャーナリスト魂だ」 「昨日の毒薬で人類の8割は死滅 日本以外も同じ状況っぽいわね」 「全世界に降った紫の雨が、まさか人類を殺すための毒薬だったなんて それじゃあ助けが来る望みは無くなった訳だ」 「薄々そんな気はしてたわ 治療薬なんて望めもしないわね」 「まぁいいさ こうして君と映画を見ながらゆったりと死に向かうのも悪くない」 「大いに賛成 さぁ次はどの映画を見ようかしら?」
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