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「お疲れですか?部長」
「…神崎」
そんな中でただ一人、臆すること無く俺に懐き、声を掛けてくる部下がいる。
神崎 柊真。
使い捨てのカップに入ったブラックコーヒーを片手に俺のそばに寄ってきたそいつは、そのカップを俺のデスクに置くとニコニコと笑いかけてきた。
「最近残業続いてましたもんね、今日はもう帰られたらどうです?あ、俺に出来る仕事があったら代わりにやっときますよ」
「…お前さ、そういう一丁前なことは与えられた仕事きっちりこなせるようになってから言ってくれる?」
「ははっ、厳しいなぁ…」
別に、こいつのことだけ特別扱いして優しく接してやったから懐いているとか、決してそういう訳では無い。
どちらかと言えば仕事が出来る部類に入るのかもしれないが、あくまでもどちらかと言えば、というだけのこと。
詰めは甘いし凡ミスもするしで毎日のように俺の説教を受けているこいつが、他のヤツらのようにビビったりせずヘラヘラと近付いてくる意味が分からない。
(心臓毛むくじゃらなのかな、こいつ。)
「…部長?」
無言でじっと見詰めてくる俺を不思議に思ったのか、神崎はキョトンと首を傾げている。
「…なんでもない、やっぱ俺帰るわ。コーヒーご馳走様」
そう声を掛けてバッグを掴み立ち上がると、また彼はニッコリと笑ってお疲れ様でした、と頭を下げた。
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