市橋 彩人

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市橋 彩人

「ねぇ…何回言ったら分かんの?ちゃんと考えて動きなよ。それとも俺を怒らせる為にわざとミスしてる?」 「仕事が遅い!たったそれだけのことにどんだけ時間掛けてんの?」 自分で言うのもなんだが、俺は優秀だ。 22歳で入社した会社で最初に配属された部署で、28歳にして部長の座にまで上り詰めた。 だから、仕事が出来ない人間のことが全くもって理解できず、毎日毎日部下達を叱り付けている。 それ故に陰で、 「市橋部長って綺麗な顔して言葉きついよなー」 やら、 「俺マジあの人に喋り掛けられると寿命縮んでる感じするもん」 やら、 「絶対私生活でもドSだろ」 などと好き勝手言われていることには気付いていたし、自分でもパワハラ上司などと言われぬ内になんとかしたいという思いもあったけれど、如何せん俺は仕事が出来るし、俺自身もずっと周りの大人から厳しくされて育ってきたから、仕事が出来ない人間にどういう言葉を掛けるのが正解なのか分からない。 「はぁ……」 弱っているところを会社のヤツらに見られたくなくて、滅多に溜め息など吐かない俺が思わず盛大な溜め息を吐き出してしまっただけで、近くにいた部下達の背中がびくりと跳ね上がった。 (ビビられてんなぁ、俺…。)
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