第2話 因果

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 正確には高速回転する円盤みたいな(かめ)さんの群れだ。四肢を引っ込めた穴からのジェット噴射で飛んでいる。 「強いぞカメさんっ強いぞカメさんっ甲羅(こうら)タックルぅ」  亀さんたちが怒涛(どとう)の勢いでアンドレアにブチ当たり、しもべの犬猫ニワトリともども痛めつけて吹っ飛ばす。 「ぐげおっほ!?」  音楽隊の消滅と同時に超音波アタックも中断される。 「アンドレアっ!」  と焦るアナベルに命拾いしたクリガラが微笑みかけ、両の鼻孔に溜まっていた血を強い鼻息で勢い良く抜く。 「ヘイ、外人さんよォ! この鎖、ちぎるの諦めるわ」 「ホワイ!?」 「壊れねェならよォーッ! 他の方法(やりよう)あるぜェーッ!」 「強がりをッ! どうあがいても脱出不可能ォーッ! このまま全身を締め上げッ! 圧殺してやるゥーッ!」  鎖はアナベルの手のひらから無尽蔵(むじんぞう)に生産され続け、クリガラをがんじがらめにして右の巨腕さえ折り砕く。  だがクリガラは血と汗を流しても不敵な笑顔のまま、首を変形させて長く伸ばすという驚くべき行動に出た。 「反逆のマッスルアート! ろくろっ首オバケでい!」  意表を突かれたアナベルの首にクリガラの首が絡み、大蛇のように巻き付いて凄まじいパワーで締め付ける。 「うぐおォッ貴様ァッ!!」 「さァ根比べだぜェッ!!」 「ナメるなマッスルヘッドめェェェェッ!!」 「もしかして脳筋って意味かァァァァッ!!」  互いにまったく譲らぬ意地の張り合いデスマッチは、骨が砕けるポキゴキッという小気味いい音で終了した。  それは言わずもがなアナベルの首が()し折れる音だ。  異能者死亡によって拘束具が(ちり)と化して消滅すると、解放されたクリガラは首を元の長さに戻して一息つく。 「てェしたことなかったナ」 「うわぁっ! アネゴぉ!」  涙目のアンドレアが駆け寄ってきて亡骸を抱え上げ、そこにある死という現実に打ちのめされてか泣き叫ぶ。 「よくもアネゴをっ! 許さねぇからなぁファッ○!」  クリガラめがけてキックを繰り出したロバの前足は、恐ろしい鈍器のはずだが容易(たやす)くキャッチされてしまう。 「うるせェからコイツの舌ひっこ抜いて喉も潰してさ、さっきの技ァ使えなくしてなぶり(・・・)殺してやろうぜェ〜」 「おっけ〜! 竜宮フィーバーおさかなフィーバー!」  ノリノリの乙姫様が扇子(センス)を広げて頭上で振り回すと、バブル時代の軽快なディスコミュージックが流れ出す。  デデ♪ デン♪ デデデ♪ デデデン♪  虚空を泳ぐ魚群が現れてアンドレアに襲いかかった。 「ぎゃあーっ! やめろーっ!」
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