第2話 因果

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 肩を掴んで強引に向き合おうとするヒイラギの胸に、キサラギが拳を叩きつけてヒステリックに喚き散らす。 「うるさいッ! 返せよ、わたしの平和ッ!」 「え」 「アンタも結局お父様や、若頭と変わんないもんッ! 戦いしか能がないくせに、保護者ヅラしないでよッ!」 「あ」  ヒイラギは頭を殴られたようにフラフラと数歩退(しりぞ)き、一方のキサラギは冷や水を浴びたように青ざめていく。 「ごめん」  キサラギの謝罪が虚しく響く。 「謝るな」  おそらくヒイラギは平静を装おうと(こころ)みてしくじり、口角を引き締め(そこ)なってかクシャリと歪ませてしまう。 「お前は……(ただ)し……」  言葉が途切れて嗚咽(おえつ)と化した。 「ひっう……えっ……」  しずくがこぼれて地を濡らす。  ヒイラギは稚児(ちご)みたく泣いた。  へたり込む親友を前にキサラギは黙って立ち尽くす。小刻みに震える両者の背中を(かえり)みて孤狼(ブランカ)が去っていく。  10分後  シンゲツ家の屋敷  連絡を受けてすぐ迎えにきた若頭(ドウジマ)や若衆と車に乗り、帰宅したキサラギとヒイラギは広間で休まされている。  下着にパーカーを羽織(はお)って呆然とソファに横たわる、そんなキサラギをチラと確認してドウジマが語り出す。 「よくお嬢を救出したなモモ(こう)とホメたいところだが、仕事の最低ラインは……あくまでも護衛の完遂だろ?」 「はい、兄上」  静かに凄まれた直立姿勢のヒイラギが無表情で頷く。 「テメェがついていながら誘拐を許したオトシマエは、あとでつけてもらう……そこんところわかってんな?」 「はい、兄上」  ドウジマはヒイラギの腫れた(まぶた)に親指で軽く触れる。 「泣いてたのか?」 「少し、だけ……」 「テメェのこったモモ公……俺にクギ刺されなくても、じゅうぶん(こた)えてんだろ? 許可なく、切腹(セップク)すんなよ」 「この命、()に捧げます。自己満足には、(もち)いませぬ」  堅苦しく答え続けるヒイラギだが急に頭を撫でられ、ボブカットをボサボサに乱されて「きゃあっ」と驚く。 「カワイイ妹分にホイホイ死なれちゃたまんねェよっ」  ぶっきらぼうに吐き捨てた兄貴分がソッポを向くと、少女剣士は困惑した様子で縮こまって赤面してしまう。  絶妙のタイミングでクリガラとタツミヤも帰還する。 「おーう兄貴おひさ! って若干ヘンな空気じゃね?」 「ひーちゃん真っ赤! 甘〜いやつ始まってます〜?」 「タツミヤどの……お(たわむ)れをっ……」 「あやし〜! ひーちゃん覚悟〜!」  ここでドウジマはハデに(せき)払いして場を仕切り直す。 「ちょうど良い……いや良くはねェがな……話がある」
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