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肩を掴んで強引に向き合おうとするヒイラギの胸に、キサラギが拳を叩きつけてヒステリックに喚き散らす。
「うるさいッ! 返せよ、わたしの平和ッ!」
「え」
「アンタも結局お父様や、若頭と変わんないもんッ! 戦いしか能がないくせに、保護者ヅラしないでよッ!」
「あ」
ヒイラギは頭を殴られたようにフラフラと数歩退き、一方のキサラギは冷や水を浴びたように青ざめていく。
「ごめん」
キサラギの謝罪が虚しく響く。
「謝るな」
おそらくヒイラギは平静を装おうと試みてしくじり、口角を引き締め損なってかクシャリと歪ませてしまう。
「お前は……正し……」
言葉が途切れて嗚咽と化した。
「ひっう……えっ……」
しずくがこぼれて地を濡らす。
ヒイラギは稚児みたく泣いた。
へたり込む親友を前にキサラギは黙って立ち尽くす。小刻みに震える両者の背中を顧みて孤狼が去っていく。
10分後
シンゲツ家の屋敷
連絡を受けてすぐ迎えにきた若頭や若衆と車に乗り、帰宅したキサラギとヒイラギは広間で休まされている。
下着にパーカーを羽織って呆然とソファに横たわる、そんなキサラギをチラと確認してドウジマが語り出す。
「よくお嬢を救出したなモモ公とホメたいところだが、仕事の最低ラインは……あくまでも護衛の完遂だろ?」
「はい、兄上」
静かに凄まれた直立姿勢のヒイラギが無表情で頷く。
「テメェがついていながら誘拐を許したオトシマエは、あとでつけてもらう……そこんところわかってんな?」
「はい、兄上」
ドウジマはヒイラギの腫れた瞼に親指で軽く触れる。
「泣いてたのか?」
「少し、だけ……」
「テメェのこったモモ公……俺にクギ刺されなくても、じゅうぶん堪えてんだろ? 許可なく、切腹すんなよ」
「この命、義に捧げます。自己満足には、用いませぬ」
堅苦しく答え続けるヒイラギだが急に頭を撫でられ、ボブカットをボサボサに乱されて「きゃあっ」と驚く。
「カワイイ妹分にホイホイ死なれちゃたまんねェよっ」
ぶっきらぼうに吐き捨てた兄貴分がソッポを向くと、少女剣士は困惑した様子で縮こまって赤面してしまう。
絶妙のタイミングでクリガラとタツミヤも帰還する。
「おーう兄貴おひさ! って若干ヘンな空気じゃね?」
「ひーちゃん真っ赤! 甘〜いやつ始まってます〜?」
「タツミヤどの……お戯れをっ……」
「あやし〜! ひーちゃん覚悟〜!」
ここでドウジマはハデに咳払いして場を仕切り直す。
「ちょうど良い……いや良くはねェがな……話がある」
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