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「キサラギさん、そちらのかたは?」
「あっえーと……ほら、黙ってないでご挨拶して」
キサラギに付き従うボブカットの女子は催促に応え、直立姿勢で挙手した右手の指を伸ばして頭部に添える。
「ヒイラギだ。異国の級友に、敬礼」
キサラギの口角が、ピクピクと引きつった。
「あはははっ……なんていうか、変わった子でしょ? 怒ったような目つきしてるけど、小さい頃からこうよ。この子とは幼なじみっていうか、姉妹同然に育ったの。わたしからすればワガママな妹、みたいな感じかなっ」
ここまで言われて、ヒイラギが眉を八の字に曲げる。
「待て。今のは心外だ。訂正を要求する。妹はお前だ」
「はいはい、お姉ちゃん。ねっ、こいつ顔が怖いだけで中身はただの意地っ張りなお子ちゃまってわけなのっ」
「またもや心外だ」
「どこか間違ってる?」
姉妹のやり取りが無表情だった留学生を破顔させる。
「ふふっ……」
「笑った……」
キサラギが呆然とつぶやいたかと思えば唐突に動き、小柄な留学生の体にぶつかるみたいな勢いで抱きつく。
「なんてカワイイ笑顔なの! キサラギときめき〜! わたしね、わたしね〜! 将来はカワイイ大学カワイイ学部に進学して、カワイイ研究家になるのが夢なの! つまり世界のカワイイすべてを愛する、求道者なの!」
「あなた、私の友人と少しだけ似ています。もっとも、友人の場合は自分がカワイクなることに夢中でしたが」
「そのお友達は今どこに? ぜひとも会いたいわっ!」
「死にました」
返答で殴られたとでもいうふうにキサラギは呻くと、留学生をさんざん撫で回していた手を止めて震え出す。
「ごめんなさいっ」
「キサラギさんが謝ることじゃない、と思います」
留学生が再びヒイラギを睨む。
「ランカくん、放課後の予定の有無を確認したい」
ヒイラギは真っ直ぐな眼差しで相手と向き合う。
市内 高級住宅街
シンゲツ家の屋敷
「お嬢、お帰りなせぇ」
「タナカヤマ、パスっ」
玄関でうやうやしくひざまずく童顔の青年に対して、お嬢と呼ばれた女子高生はぞんざいにも鞄を投げ渡す。
「わわっ、コレどうしたら……」
「テキトーに部屋に置いといて」
「しかし、お嬢のお部屋に……」
「入っていいって聞こえなかった? グズ!」
か弱い青年を一喝すると大股で廊下を進む。
基本的な所作などお構いなしに乱暴にフスマを開け、広間に詰めていた屈強な男たちを前にして喚き散らす。
「どうして死体を晒すようなことしたのよっ!?」
「キサラギお嬢様」
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