第2話 因果

10/10
前へ
/52ページ
次へ
 路上 「マリナぁぁぁぁーっ!!」  アンドレアの絶叫が響く。  マリナの体はまるで磔刑(たっけい)に処された殉教者のごとく、電柱の上部の電線に貫かれて力無くぶら下がっていた。 「おろしてやる! まってろぉー!」  アンドレアが猛スピードで電柱をよじのぼりきって、マリナを慎重に抱えようとして状況の異様さに気づく。あまりにも自然に貫通しているからこそ不自然な傷は、電線の接合部に体のほうが割り込んだ(・・・・・)としか思えない。  失った左腕の断面もまた恐ろしく平ら。  初めからそのカタチであったかのよう。 「アンさん……ごめんナサーイ」  虫の息で瞳も虚ろなマリナがささやく。 「コトワザ……間違ってマシタ」 「こんな時に何いってんすか!」 「『ここに入っちゃオレに従え』じゃなくて……」 「それでいい! もうオマエが正解でいいよ……」  ショートヘアのラプンツェルは微笑んで目を閉じる。ダチもアネゴも亡くしたヤンキー娘がひとり天を仰ぐ。 「シンゲツ組ィッ! 皆殺しにしてやらァァァァッ!」  同刻  シンゲツ家の屋敷 「ウメ先生っ」  クリガラがそう呼ぶ男は防犯カメラ映像の中にいる。白人少女3人組に拷問されて殺されていくスシ職人だ。 「ほとんどさっき戦った奴らじゃねェかチクショウ! 知ってりゃゼッテェ逃がさなかったのにクソッタレ!」  小さなモニターにタックルをブチかまさんばかりに、荒れ狂うクリガラは映像が終了すると途端にうつむく。 「ウメ先生ェ……アケミちゃん残して逝っちまうなよ。今度またスシ……食わしてくれんじゃねェのかよォ?」 「その娘さんも変態野郎に殺された。画像、見るか?」  そう言って隣のドウジマがくわえタバコを噛み砕く。いやよく見ればタバコでなく棒付きキャンディだった。  クリガラは(たかぶ)って吠えると拳を打ち鳴らす。 「グリムどもォッ! 皆殺しにしてやらァァァァッ!」 「親の因果が子に報い……かぁ」  反対に冷めきった声でキサラギがつぶやく。  気だるげにタメ息をつきながら歩いてくる。 「アケミちゃんもカワイソウにね。ヤクザもんの子供に生まれてこなければ……平和に生活できたでしょうに」 「オイお嬢テメェ何ほざいてんだ他人事みてェによォ」 「そうよ他人事だものッ! わたしには関係ないッ!」 「殴る!」  クリガラの腕をヒイラギが掴み止める。 「よせ!」 「ナイト様はいつでも姫の味方ってか?」 「違う……ぼくの仕事だ……どいてくれ」 「えっ?」  ヒイラギが踏み出すと同時に鈍い音がした。  日米オトギ抗争     ただいま12対8
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加