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路上
「マリナぁぁぁぁーっ!!」
アンドレアの絶叫が響く。
マリナの体はまるで磔刑に処された殉教者のごとく、電柱の上部の電線に貫かれて力無くぶら下がっていた。
「おろしてやる! まってろぉー!」
アンドレアが猛スピードで電柱をよじのぼりきって、マリナを慎重に抱えようとして状況の異様さに気づく。あまりにも自然に貫通しているからこそ不自然な傷は、電線の接合部に体のほうが割り込んだとしか思えない。
失った左腕の断面もまた恐ろしく平ら。
初めからそのカタチであったかのよう。
「アンさん……ごめんナサーイ」
虫の息で瞳も虚ろなマリナがささやく。
「コトワザ……間違ってマシタ」
「こんな時に何いってんすか!」
「『ここに入っちゃオレに従え』じゃなくて……」
「それでいい! もうオマエが正解でいいよ……」
ショートヘアのラプンツェルは微笑んで目を閉じる。ダチもアネゴも亡くしたヤンキー娘がひとり天を仰ぐ。
「シンゲツ組ィッ! 皆殺しにしてやらァァァァッ!」
同刻
シンゲツ家の屋敷
「ウメ先生っ」
クリガラがそう呼ぶ男は防犯カメラ映像の中にいる。白人少女3人組に拷問されて殺されていくスシ職人だ。
「ほとんどさっき戦った奴らじゃねェかチクショウ! 知ってりゃゼッテェ逃がさなかったのにクソッタレ!」
小さなモニターにタックルをブチかまさんばかりに、荒れ狂うクリガラは映像が終了すると途端にうつむく。
「ウメ先生ェ……アケミちゃん残して逝っちまうなよ。今度またスシ……食わしてくれんじゃねェのかよォ?」
「その娘さんも変態野郎に殺された。画像、見るか?」
そう言って隣のドウジマがくわえタバコを噛み砕く。いやよく見ればタバコでなく棒付きキャンディだった。
クリガラは昂って吠えると拳を打ち鳴らす。
「グリムどもォッ! 皆殺しにしてやらァァァァッ!」
「親の因果が子に報い……かぁ」
反対に冷めきった声でキサラギがつぶやく。
気だるげにタメ息をつきながら歩いてくる。
「アケミちゃんもカワイソウにね。ヤクザもんの子供に生まれてこなければ……平和に生活できたでしょうに」
「オイお嬢テメェ何ほざいてんだ他人事みてェによォ」
「そうよ他人事だものッ! わたしには関係ないッ!」
「殴る!」
クリガラの腕をヒイラギが掴み止める。
「よせ!」
「ナイト様はいつでも姫の味方ってか?」
「違う……ぼくの仕事だ……どいてくれ」
「えっ?」
ヒイラギが踏み出すと同時に鈍い音がした。
日米オトギ抗争 ただいま12対8
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