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第3話 欺瞞
10年前
市街
「タナカヤマ、お迎えの時どうしてみんな怖がるの? 幼稚園の先生、他の子つれて奥にいっちゃうんだよ?」
車内の後部座席で幼いキサラギは傍らの少年に問う。
「えと……ごめんなさい……僕にもよくわかりません」
と困り顔になる少年の代わりに運転席の男が答えた。
「キサラギお嬢様にもいずれおわかりになるでしょう」
「へー……あっドウジマ……ちょっとおクルマとめて」
唐突な要求にドウジマはすぐ対応して路肩に寄せる。
「おトイレすか?」
「ううん違うのよ。あの子ヘンだなって」
キサラギが指差す先には薄汚い服を着た子供がおり、荒んだ目つきでうつむきがちに歩道をうろついている。
その子供をひと目みてタナカヤマはアッと声を出す。
「どうかしたか?」
「あっいえ兄貴……ニュースでみた顔と似てるなって。この近くでさつ……じっ『事件』あったでしょ事件っ」
言葉を濁すタナカヤマの膝上をキサラギが乗り越え、「いってきます」と言うやいなや外に飛び出していく。
「お嬢様! いけません!」
ドウジマの声も無視してキサラギは浮浪児に近づく。
「ねェあなた……ひとり?」
話しかけられた浮浪児が胡乱げな視線を向けて返す。
「そうだけど……キミ誰?」
「わたしキサラギ」
「ぼくはヒイラギ」
「どこの子? おウチは?」
「もう帰れないんだよ」
「どうして? 迷子なの?」
しつこくたずねるキサラギにヒイラギがムッとする。
「他人にゃ関係ないし」
「じゃあ仲良くなろっ」
「『じゃあ』って何?」
「いいでしょおーっ?」
駄々をこねるキサラギはタナカヤマに抱え上げられ、一方のドウジマはヒイラギの体を容赦なく突き飛ばす。
「きゃっ」
「お嬢様に近づくな小汚いガキめ!」
「勝手に来たのソイツじゃないか!」
「うせろ」
ドウジマが虫でも追い払う時のような仕草をすると、ヒイラギは鬼のツノを生やして彼に踊りかかっていく。
「うがぁっ!」
「異能者かっ」
拳銃を抜いたドウジマの腕に噛みつくヒイラギだが、振り落とされたうえ彼の前蹴りを腹にもらって苦しむ。
「終いだァ!」
「やめてぇっ」
キサラギがヒイラギをかばって銃口の前に立つ。
「お嬢様!?」
「ヒイラギをイジメないで」
「なぜっ!?」
「ドウジマ! 撃つならわたしごと撃たんかい!」
強面を一喝して黙らせたキサラギはヒイラギを抱く。
「ウチに来ておフロ入ろっ」
「なんでっ……助けたの?」
「だって友達でしょおっ?」
「友達じゃ……ないよぉっ」
こうして、ふたりは家族になった。
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