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シンゲツ家の屋敷
ヒイラギがキサラギを殴った。
いまだかつてない出来事にクリガラは目を丸くして、タツミヤは仲裁に入ろうとしてパタパタ慌てふためく。
「ちょっとぉ〜っヒイラギちゃんらしくないよぉ〜っ」
ここで真っ先に激怒しそうなドウジマが無言のまま、タツミヤを手で制して成り行きを見守れと視線で語る。
「ひっく、ひっく」
しゃっくりをするキサラギの目に涙が溜まっていく。
「そっかぁ……アンタまで、こういうことするんだぁ。キサを守る……とか言って、拾ってあげた恩も忘れて」
「だからこそだ。大事なお前だからこそ見てられない。心を腐らせるな。今は辛くても優しいキサでいてくれ」
ヒイラギもまた涙ぐみながら切々と一言一句を紡ぐ。
「知らないわよ! 勝手な理想、押し付けないでっ!」
キサラギは何も聞きたくないというふうに喚きつつ、幼児みたいに地団駄を踏むと踵を返して逃げてしまう。
「キライ大嫌い! わたしたち、もうオシマイねっ!」
捨て台詞とともにキサラギが部屋を飛び出したあと、ヒイラギはフラリと揺らめいてくずおれると顔を覆う。静かに歩み寄るドウジマの足にガッシリとしがみつき、しばらく小刻みに震え続けて離れようとはしなかった。
ロッカク・ストリート
カワウソ喫茶店・ニンジャ
「ベルのアネゴが、死にました……」
「知っている」
「ダチのマリナも、死にました……」
「あァ残念だ」
店内のタタミの上で自由に過ごすカワウソを撫でて、外ハネ赤毛の黒スーツ女が部下の報告に淡々と答える。
「リリアンさん……質問……いいでしょうかぁ?」
あちこちケガだらけ包帯まみれ状態のアンドレアは、本当なら叫びたい感情を抑えているような小声である。自分の頭の上に乗っかって眠っているカワウソくんを、ビックリさせちゃったらカワウソウという配慮だろう。
「チームなのにさ、なんでバラバラに行動させるの? みんな集まってさ、敵アジトに特攻かけりゃ勝ちだべ」
「作戦についてボスに一任されているのはワタシだぞ。キミらに関しちゃ仲良しトリオで組ませてやったしな」
「このままじゃあ、各個撃破されてボロ負けなんすわ。ヤクザのテラーズ、ひとりも欠けてないらしいですぜ」
「じゃあウチもあと7人ってことになるねぇ」
「ハァ? 8人でしょうよボケてんすかぁ?」
「あァそろそろ失礼するけど割り勘で頼むよ」
リリアンがカワウソの頬をツンとつついて席を立つ。
カワウソくんはニコッとしてキュキュアーンと鳴く。
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