第3話 欺瞞

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 現在  シンゲツ家の屋敷  ヒイラギがキサラギを殴った。  いまだかつてない出来事にクリガラは目を丸くして、タツミヤは仲裁に入ろうとしてパタパタ慌てふためく。 「ちょっとぉ〜っヒイラギちゃんらしくないよぉ〜っ」  ここで真っ先に激怒しそうなドウジマが無言のまま、タツミヤを手で制して成り行きを見守れと視線で語る。 「ひっく、ひっく」  しゃっくりをするキサラギの目に涙が溜まっていく。 「そっかぁ……アンタまで、こういうことするんだぁ。キサを守る……とか言って、拾ってあげた恩も忘れて」 「だからこそだ。大事なお前だからこそ見てられない。心を(くさ)らせるな。今は辛くても優しいキサでいてくれ」  ヒイラギもまた涙ぐみながら切々と一言一句を紡ぐ。 「知らないわよ! 勝手な理想、押し付けないでっ!」  キサラギは何も聞きたくないというふうに喚きつつ、幼児みたいに地団駄(じだんだ)を踏むと(きびす)を返して逃げてしまう。 「キライ大嫌い! わたしたち、もうオシマイねっ!」  捨て台詞とともにキサラギが部屋を飛び出したあと、ヒイラギはフラリと揺らめいてくずおれると顔を覆う。静かに歩み寄るドウジマの足にガッシリとしがみつき、しばらく小刻みに震え続けて離れようとはしなかった。  ロッカク・ストリート  カワウソ喫茶店(カフェ)・ニンジャ 「ベルのアネゴが、死にました……」 「知っている」 「ダチのマリナも、死にました……」 「あァ残念だ」  店内のタタミの上で自由に過ごすカワウソを撫でて、外ハネ赤毛の黒スーツ女が部下の報告に淡々と答える。 「リリアンさん……質問……いいでしょうかぁ?」  あちこちケガだらけ包帯まみれ状態のアンドレアは、本当なら叫びたい感情を抑えているような小声である。自分の頭の上に乗っかって眠っているカワウソくんを、ビックリさせちゃったらカワウソウという配慮だろう。 「チームなのにさ、なんでバラバラに行動させるの? みんな集まってさ、敵アジトに特攻(ブッコミ)かけりゃ勝ちだべ」 「作戦についてボスに一任されているのはワタシだぞ。キミらに関しちゃ仲良しトリオで組ませてやったしな」 「このままじゃあ、各個撃破されてボロ負けなんすわ。ヤクザのテラーズ、ひとりも欠けてないらしいですぜ」 「じゃあウチもあと7人ってことになるねぇ」 「ハァ? 8人でしょうよボケてんすかぁ?」 「あァそろそろ失礼するけど割り勘で頼むよ」  リリアンがカワウソの(ほっぺ)をツンとつついて席を立つ。  カワウソくんはニコッとしてキュキュアーンと鳴く。
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