第3話 欺瞞

4/10
前へ
/52ページ
次へ
 純和風旅館・テンプラ  キョートのシンボルであるヤサカ・タワーを眺めて、露天風呂(ろてんぶろ)にひとり浸かるシンシアが誰かに話しかけた。 「アレ見える? 湯気でボンヤリしちゃってるかな? ハルク・ホーガン()とかいう有名な建物なんだってさ。えっ間違った? はいはいホーカン寺っていうのね? スノウはお利口だねぇ〜キョートにも詳しいんだぁ〜」  スマホも無線機も手元にないというのに相変わらず、まるで何者かが近くにいるかのように喋り続けていた。  彼女は狂っているのだろうか?  それともテレパシーなど使うエスパーなのだろうか? 「あっゴメン! 新入りのお兄さんと話したいのっ! 繋いでくれる? うん……また……お喋りしようね?」  通信の相手が交代するらしい。  シンシアの表情に先ほどまでの穏やかさは既にない。 「ええ大丈夫ですよ普通に電話みたいにしてもらって。スノウがうまく調整してくれてるんで傍受(ぼうじゅ)されません。そもそも幹部クラスだとリンゴ(・・・)()んでいませんしね。てかダブルスパイとか疑いだしたらキリないですって」  いったん湯船から上がり、そよ風で白い肌を冷ます。眩しい肩から伝うしずくが、乳房(ちぶさ)の谷間に小池を生む。 「あーしとしてはもっと一気に片付けたかったんです、『赤ずきん』に隠れ(みの)やってもらって同士討ち狙いで。でも『ラプンツェル』が落ちたのは割とデカいですよ、アイツああ見えてプリンセス属性で厄介な奴だったし」 「スパ(※温泉)……イっしょに入ってもぉ〜……」  背後で響く声にシンシアは震えて黙り込む。 「いいかなぁ〜っ? シンシアくんっ?」  テラーズ部隊の指揮官(リーダー)がユラリと踏み出す。  ギオン・シラ川の近辺  スイーツ店・スキヤキ 「キョートのスイーツ……キュートなのだわ」  卓上で並ぶゼンザイやアンミツに興奮しているのは、三角巾とエプロンをつけた幼女でグレースという名だ。スイーツならば作るのも食べるのも好きな彼女が扱う、『ヘンゼルとグレーテル』の異能もスイーツにちなむ。 「しゅご〜い! この……アラモードぉ〜!」  熟練パティシエ幼女はスプーンをしゃぶる。 「抹茶プリンかと思いきやアボカドだったのだわ〜! ソースに至ってはチョコじゃなくイカスミだわよ〜!」  グレースも絶賛するほど素晴らしき品々が次の瞬間、巨大ハンマーにテーブルごと叩き潰されてゴミと化す。 「ほんぎゃ〜! ひっど〜い許さんのだわ!」  凶悪な巨大ハンマーで天井を打ち砕いて降ってきた、園児用スモックを纏う娘は『一寸法師(イッスンボウシ)』のオオヅチだ。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加