第3話 欺瞞

5/10
前へ
/52ページ
次へ
「あちゃあゴメンっての! 別だん悪気ないわけよ!」  トンボ玉つきのヘアゴムで結ぶポニーテール振って、平謝りされてもグレースの怒りがおさまるはずもない。 「キョートに来るの楽しみにしてたのに台無しだわ!」  グレースは床に転がるゼンザイの白玉ダンゴを拾い、怨念を込めることで小型の爆弾へと変質させて投げた。 「食らえだわ!!」 「物質変異系!?」  すぐ飛び退くオオヅチだが破裂したダンゴの爆炎で、後方へと吹き飛ばされて火傷まで負ってもんどり打つ。 「(アツ)ゥッあんたヘンなジャパン語だけどマフィア!?」 「そーゆーアナタはヤクザだわねドーナツカッター!」  お次は抹茶ドーナツが円月輪(チャクラム)みたいな刃物となって、高速回転しながら飛び交ってオオヅチの肌を切り裂く。 「痛いイタイもう降参コーサンします許してっての!」 「スイーツのうらみはスイーツで晴らすべしだわよ!」  グレースはデカい泡立て器を召喚すると両手で操り、大量のクリームを巻き上げてオオヅチに塗りたくった。 「ひゃん! やだベトベト〜くっついてとれない〜!」 「あたしの合図ひとつで起爆するクリーム爆弾だわよ」  泡立て器を肩に担いで指を鳴らそうとするグレース。一方すっかり怯えた様子で座り込んでしまうオオヅチ。 「待ってぇホントにゴメンってば殺さないでっての! お詫びするよ命だけは助けてよマジでお願いします!」  イジメみたいな状況がグレースを冷静にしたらしい。 「あうっ……少々やりすぎかもだわね……反省した?」 「そりゃお菓子を粗末にしたら怒られて当然だっての」 「そもそもナゼあんなドカーンって現れたんだわよ?」 「落っこちる前にハンマーで衝撃を相殺しようとして、たまたまそこにお店があったわけで不可抗力なわけよ」 「で? どうやってオトシマエつけてくれるのだわ?」 「アタイってばモノのサイズを拡大縮小できるわけよ。たとえばコイツをウチデ・ハンマーで叩いて念じます」  たちまち約2メートルの超サイズとなったパフェに、グレースは瞳をキラキラさせながら喜んで飛びついた。 「すてき! 幸せだわよ!」 「どーぞ! これオマケ!」 「まあカワイイ! おクルマの砂糖菓子なのだわっ!」 「パトカーだよ! コドモはいっぱい食べなくちゃ!」 「いただきま〜す! う〜ん不思議なお味あんぐっ!」 「おっきなおクチ! いくらでも入りそうですなぁ!」  ヤクザとマフィアの苛烈(かれつ)なる抗争など忘れたような、平和で幸福な美しき国際交流のカタチがそこにあった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加