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キヨミズ寺の舞台
ヒイラギは柵につかまって緑の木々を見下ろす。
およそ13メートルという高さをも恐れぬ者ならば、夕空のもと景色を独占する鳥の気分を味わえるだろう。
『すごーい! 飛んでるみたいだねー!』
笑顔の親友を傍らに幻視してヒイラギが涙ぐむ。
美化されし記憶すら今や胸の傷をえぐるだけか。
数時間前
シンゲツ家の屋敷
「モモ公……オメェさん……ちょっくら休め」
ドウジマの急な命令にヒイラギはもちろん面食らう。
「兄上?」
「お嬢の守りは俺らに任せて外でもブラついてこいや。女子高生なら遊びのスポットいっぱい知ってんだろ?」
「しかし持ち場を離れる理由がございませぬ」
「ボロ泣きしてやがったくせにヤセ我慢すんじゃねェ。お嬢の顔ォ見んのもシンドそうにして護衛が務まるか」
「しかしッ!」
「モモ公ッ!」
ドウジマがヒイラギに迫って部屋の隅まで追い詰め、壁をドンと叩いて彼女を威圧するなり至近距離で睨む。
「言うこと聞きやがれッ!」
「あっひっ……はいっ……」
「俺ごときにビビんじゃねェや最強ッ!」
「めっ面目……しだいもございまっ……」
「ウザってェ! とっとと行っちまえ泣き虫ッ!」
「あにうえっ! ごめんなさいっごめんなさぁいっ!」
現在
さめざめと涙するヒイラギの背後にブランカが立つ。
「キヨミズの舞台はナゼ……こんなに高いのですか?」
「建てた者に聞いてくれ……ぼくを倒しにきたのか?」
目元を拭って振り向くヒイラギの鼻先で輝くものは、ブランカが手首の血で作り出した血刀の切っ先である。
「ターゲットと会う理由など他にありません勝負です」
「斬るなら斬れ。価値のない首で良ければ持っていけ」
ペタンとへたり込んで頭を垂れてしまうヒイラギに、ブランカは無表情のまま呆れ果てるように舌打ちした。
「情けないです。いつでも戦うって約束をしたくせに」
「ぼくの存在意義のすべて……守りたい大切なヒトは、ぼくのこと大嫌いって言ったんだ必要としてないんだ」
「そいつならまだ生きてる……そして会いにいけます。生きてさえいれば話もできて関係だって修復できます」
「もうムリだよ! ぼくのコトバなんか届かないよ! 根拠もないのに! 安っぽい慰めなんかやめてくれ!」
ヒイラギの叫びの残響が消えぬうちに、
「私の親友のアリスは! この国で死にました!」
ブランカが壮絶な剣幕となって吠える。
「私の手の届かない遠いところでアリスは死んだッ! ケンカ別れしてそれっきりでもうどこにもいないッ!」
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