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1ヶ月前
ジョン・F・ケネディ国際空港
アリスは悪戯っぽい口調でブランカに問う。
「ブランカは、私が死んだら泣いてくれる?」
「いきなり何? そのジョーク好きじゃない」
「最後にさァ、友情の確認くらいさせてェ?」
「やめてよね! 出発の前に縁起でもない!」
突っぱねるブランカの唇をアリスがキスで塞ぐ。
「ねェ……私のこと……愛してる?」
「友達だって思ってるけど違うの?」
「ほらほら私のキモチ全然わかってくれてないじゃん。あんた心とか無いもんね私が死んでもヘーキでしょ!」
「勘弁して……ってか、重いんだよ」
「そっかぁ……じゃあ、今の忘れて」
「急いだら? もう時間ヤバいし!」
ブランカはプイと背を向けて相方の軽口を待つ。
予想外の静けさに不安を感じて振り返るが既に遅い。求める姿は雑踏に紛れてどう探しても見つけ出せない。
現在
柵に寄りかかるブランカとヒイラギの火照った頬を、そよ風が撫でて先ほどまでの昂りも鎮めているようだ。
「アリスが求める関係性は私の考えとズレていました。私を見るアリスの目が怖くなって突き放してしまった」
「なぜキミはマフィアの世界に入ったんだ?」
ヒイラギがたずねるとブランカはうつむいて答える。
「父を殺しました……実の娘の私をレイプした男です。私を担保に入れて……組織に借金をする愉快なクズで」
「もういいゴメン……辛いこと思い出させてすまない。でもハッキリした……ブランカに親近感が湧くわけだ」
「単に私がハーフだからじゃないんですか?」
「ぼくもテラーズになった日に親父をブチ殺している。いつも母さんを殴ってた最低野郎だし後悔していない」
過去を告げたヒイラギの声に再び熱がこもっていく。
「嘘も方便っていうんなら正義の暴力があってもいい。パンパンマンは悪党をやっつけて社会に称賛されてた。自分や愛しいヒトを救って生かす暴力なら肯定される。ぼくもキミも環境が悪かっただけで間違っちゃいない」
迷いのカケラもない真っ直ぐな目でヒイラギが語り、ブランカは逆にどこか冷めたような態度になって返す。
「そんなの欺瞞です……自分を騙しているにすぎない。暴力はただのチカラ……善悪の概念など介在しません。暴力に頼ってしか生きられない者は人外とみなされる。社会から永久追放されて地獄でのたうち回るしかない」
相容れぬ未熟な価値観を容赦なく否定しきって断つ。
「あなたも私も、ケダモノです」
交わりかけたふたりの道が決定的に分かたれたのだ。
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