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ノンフレームの眼鏡をかけてグレーのスーツを纏う、インテリ営業マン的な風情の男がゆっくりと踏み出す。
「組長のご意向です。グリム・ファミリーを許すなと」
レンズ越しに輝く猛禽類めいた眼光にも気圧されず、キサラギは長身の男にヒステリックに詰め寄っていく。
「お父様が? 抗争でも始めるつもり?」
「連中のシノギはヤクです。共存なんざァできやせん」
「若頭ならお父様だって説き伏せてくれると思ってた。暴力でナシつけようなんて時代錯誤も甚だしいわよっ」
「今どきの感覚じゃあ野蛮でしょうが心優しいお嬢様、組長のいちばんギラギラなさってた頃をごぞんじない」
「こんな家の子供に生まれてくるんじゃなかったって、わたしがどれだけ恨んだかアンタこそ知らないくせに。クラス替えしたってどの子も怖がって腫れ物扱いして、普通のマトモな友達ひとり作れたことないってのにっ」
「始めちまったモン終わらすにゃ殺るしかありやせん。敵さんのテラーズ残存11名に対してコッチは12だ。既にキョートに潜入してきてるって情報もあったんで、ちっと早めに収集かけて全員そろえておきましたぜェ」
語り部たち。
オトギ話にまつわる異能を宿した子供たち。
人心の混乱を招く超常存在は国連によって秘匿され、まさにメルヘンやファンタジーのように取り扱われる。それゆえ人権もなく公然と売買できる生物兵器として、各国の特殊部隊や諜報機関や反社会組織の手に渡った。
「何それ……ヒイラギまで駆り出すっていうのっ!? あの子は……わたしの家族でボディーガードよっ!?」
「その前に何よりもウチの最強の戦力でもありまさァ。出し惜しみしてられる状況じゃあねェんだとっくにね」
「はんっ! 随分と楽しそうね……ドウジマ」
「ヤクザが鉄火場を楽しまねェでどうしやす」
「てかさ! みんな普段と違う……喋り方も変よ」
「そうですかい?」
ソファに座って大口径の拳銃をメンテナンスしだす、そんなドウジマに辟易してかキサラギはタメ息をつく。
キョート女子学園高校
剣道部 道場
「ふたりきりで会って話すということは」
と小声で切り出したのは留学生である。
「私の意図を汲んでくださってますね?」
ヒイラギが静かに振り返って口を開く。
「ランカくん……本当の名を教えてくれ」
「まいねーむいずブランカ・イーノック」
「偽名なのに……さほど違わないのだな」
「あなたがアリスを、斬ったのですか?」
「そうだと言ったら、ぼくをどうする?」
「ころす」
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