第1話 孤狼

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 ノンフレームの眼鏡(メガネ)をかけてグレーのスーツを(まと)う、インテリ営業マン的な風情(ふぜい)の男がゆっくりと踏み出す。 「組長(オヤジ)のご意向です。グリム・ファミリーを許すなと」  レンズ越しに輝く猛禽類(もうきんるい)めいた眼光にも気圧されず、キサラギは長身の男にヒステリックに詰め寄っていく。 「お父様が? 抗争(こうそう)でも始めるつもり?」 「連中のシノギはヤクです。共存なんざァできやせん」 「若頭(わかがしら)ならお父様だって説き伏せてくれると思ってた。暴力でナシつけようなんて時代錯誤も(はなは)だしいわよっ」 「今どきの感覚じゃあ野蛮(やばん)でしょうが心優しいお嬢様、組長のいちばんギラギラなさってた頃をごぞんじない」 「こんな家の子供に生まれてくるんじゃなかったって、わたしがどれだけ恨んだかアンタこそ知らないくせに。クラス替えしたってどの子も怖がって()れ物扱いして、普通のマトモな友達ひとり作れたことないってのにっ」 「始めちまったモン終わらすにゃ()るしかありやせん。敵さんのテラーズ(・・・・)残存11名に対してコッチは12だ。既にキョートに潜入してきてるって情報もあったんで、ちっと早めに収集かけて全員そろえておきましたぜェ」  語り部たち(テラーズ)。  オトギ話にまつわる異能(チカラ)を宿した子供たち。  人心の混乱を(まね)く超常存在は国連によって秘匿(ひとく)され、まさにメルヘンやファンタジーのように取り扱われる。それゆえ人権もなく公然と売買できる生物兵器として、各国の特殊部隊や諜報機関や反社会組織の手に渡った。 「何それ……ヒイラギまで駆り出すっていうのっ!? あの子は……わたしの家族でボディーガードよっ!?」 「その前に何よりもウチの最強の戦力でもありまさァ。出し惜しみしてられる状況じゃあねェんだとっくにね」 「はんっ! 随分(ずいぶん)(たの)しそうね……ドウジマ」 「ヤクザが鉄火場(てっかば)を楽しまねェでどうしやす」 「てかさ! みんな普段(いつも)と違う……(しゃべ)り方も変よ」 「そうですかい?」  ソファに座って大口径の拳銃(チャカ)をメンテナンスしだす、そんなドウジマに辟易(へきえき)してかキサラギはタメ息をつく。  キョート女子学園高校  剣道部 道場 「ふたりきりで会って話すということは」  と小声で切り出したのは留学生である。 「私の意図を()んでくださってますね?」  ヒイラギが静かに振り返って口を開く。 「ランカくん……本当の名を教えてくれ」 「まいねーむいずブランカ・イーノック(My name is Blanca Enoch.)」 「偽名なのに……さほど違わないのだな」 「あなたがアリスを、()ったのですか?」 「そうだと言ったら、ぼくをどうする?」 「ころす」
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