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絶え間なき連打をヒイラギが避けて防いで受け流す。
鬼娘の額で青く輝く2本ヅノは感覚器官として働き、微細な空気振動をコンマ1秒のズレもなく脳に伝える。たとえ数万匹の蚊を目の前で一斉に放たれたとしても、肌に取り付くことさえ許さず残らず斬り落とすだろう。
対するブランカは攻撃威力とスピードを跳ね上げた。
赤いフードにふたつの穴を穿ってケモノの耳が生え、スカートから覗く白いショーツを破いて尾が飛び出す。オオカミ獣人化による身体強化こそ本来の異能であり、血液操作は訓練で編み出された後天的サブ異能である。
「むっ! やわらかフワフワ毛皮の……ワンちゃん!」
過剰反応して大いに集中を乱すヒイラギの背後へと、ブランカは一瞬で回り込んでから血刀を横一閃に薙ぐ。危ういところで太刀を割り込ませて切断こそ免れるも、押し飛ばされたヒイラギは壁に叩きつけられて苦しむ。
「くっ! 萌え属性追加で誘惑など……ひきょうな!」
「ちょっとナニおっしゃってるかワカラナイですけど、完璧に反応できても押さえきれなければ無意味ですね」
トドメを刺しに向かうブランカの足は不意に止まる。よく通る委員長の呼び声が戸の向こう側で響いたのだ。
「ねぇーっ! ふたりともソコにいるんでしょっ!?」
キサラギが戸を開けて道場に入ってくるよりも早く、ブランカとヒイラギはとっさに武器を消滅させていた。
「やだーっ! どうしてどっちもボロボロなのっ!?」
大混乱のキサラギが両者のもとへと駆け寄っていき、ブランカの格好に驚くと同時に瞳を輝かせてハシャぐ。
「ぎゃーっ! 王道のオオカミ赤ずきんコスぅっ!?」
「続けるか? もはや闘争の空気ではないようだがな」
どことなく得意げなヒイラギは肩をすくめて微笑む。
「好きにしてください……私はとても疲れました……」
絶賛モフられ中のブランカがガックリと肩を落とす。
校門付近
夕暮れの帰り道を3人で歩く。
「ふたりで話したいっていうから先に車で帰ったけど、いきなり仲間ハズレってやっぱどうかと思うよねェ?」
すっかりふてくされてか薄い唇を尖らすキサラギに、ヒイラギは焦った様子でしがみついてペコペコと謝る。
「すまん! 許せっ!」
「浮気者! 道場でイチャついてからにっ!」
やかましいカワイイグルイ姉妹のあとをトボトボと、苦虫を噛み潰したみたいな面持ちの孤狼がついていく。
『ブランカは、私が死んだら泣いてくれる?』
儚げに問う、亡き親友の面影をキサラギと重ねたか。
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