第1話 孤狼

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 絶え間なき連打をヒイラギが避けて防いで受け流す。  鬼娘の額で青く輝く2本ヅノは感覚器官(センサー)として働き、微細(びさい)な空気振動をコンマ1秒のズレもなく脳に伝える。たとえ数万匹の()を目の前で一斉(いっせい)に放たれたとしても、肌に取り付くことさえ許さず残らず斬り落とすだろう。  対するブランカは攻撃威力(パワー)とスピードを跳ね上げた。  赤いフードにふたつの穴を穿(うが)ってケモノの耳が生え、スカートから(のぞ)く白いショーツを(やぶ)いて()が飛び出す。オオカミ獣人化による身体強化こそ本来の異能であり、血液操作は訓練で編み出された後天的サブ異能である。 「むっ! やわらかフワフワ毛皮の……ワンちゃん!」  過剰反応して大いに集中を乱すヒイラギの背後へと、ブランカは一瞬で回り込んでから血刀(けっとう)を横一閃に()ぐ。(あや)ういところで太刀を割り込ませて切断こそ(まぬが)れるも、押し飛ばされたヒイラギは壁に叩きつけられて苦しむ。 「くっ! 萌え属性追加で誘惑など……ひきょうな!」 「ちょっとナニおっしゃってるかワカラナイですけど、完璧に反応できても押さえきれなければ無意味ですね」  トドメを刺しに向かうブランカの足は不意に止まる。よく通る委員長の呼び声が戸の向こう側で響いたのだ。 「ねぇーっ! ふたりともソコにいるんでしょっ!?」  キサラギが戸を開けて道場に入ってくるよりも早く、ブランカとヒイラギはとっさに武器を消滅させていた。 「やだーっ! どうしてどっちもボロボロなのっ!?」  大混乱のキサラギが両者のもとへと駆け寄っていき、ブランカの格好に驚くと同時に瞳を輝かせてハシャぐ。 「ぎゃーっ! 王道のオオカミ赤ずきんコスぅっ!?」 「続けるか? もはや闘争(とうそう)の空気ではないようだがな」  どことなく得意げなヒイラギは肩をすくめて微笑む。 「好きにしてください……私はとても疲れました……」  絶賛モフられ中のブランカがガックリと肩を落とす。  校門付近  夕暮れの帰り道を3人で歩く。 「ふたりで話したいっていうから先に車で帰ったけど、いきなり仲間ハズレってやっぱどうかと思うよねェ?」  すっかりふてくされてか薄い唇を(とが)らすキサラギに、ヒイラギは焦った様子でしがみついてペコペコと謝る。 「すまん! 許せっ!」 「浮気者! 道場でイチャついてからにっ!」  やかましいカワイイグルイ姉妹のあとをトボトボと、苦虫を()(つぶ)したみたいな面持ちの孤狼(ブランカ)がついていく。 『ブランカは、私が死んだら泣いてくれる?』  (はかな)げに問う、()き親友の面影をキサラギと重ねたか。
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